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2017年3月 1日 (水)

ビジネスマンが書く日本史とは (七)

 前稿《ビジネスマンが書く日本史とは (六) 》に以下のように書いた.これについて少し補足しておきたい.

それ以来,戦地から復員した下級の兵たちは昭和天皇に背を向け,天皇を「天ちゃん」と呼んで軽侮するようになった.

 補足したいのはこの「天ちゃん」という言葉についてである.
 Wikipedia に【天ちゃん】という項目は立てられていないが,Wikipedia【ノート:天ちゃん】は存在する.
 このノートで何人もの Wikipedia 執筆者たちが議論をしているが,明らかにこの人たちは,日常生活で「天ちゃん」が使われているシーンを見たことも聞いたこともない若い人たちである.
 その人たちが「天ちゃん」は蔑称か否か,などと議論しているのだが,それは全く無意味である.想像でああだこうだと言っている暇があったら年寄り (といっても戦中生まれにまで遡る必要はなく,昭和二十年代生まれ程度の年寄りでよろしい) に訊きに行けばいいのだ.
「天ちゃん」は日常生活で頻出する口語ではあったが,しかし依然として日本社会では昭和天皇あるいは天皇制に触れることはタブーであったため,文字として残らなかった.つまり用例が残っていないのである.
 Wikipedia【ノート:天ちゃん】に,次のようにある.

「天ちゃん」が愛称か蔑称かについて 半藤一利著「コンビの研究」文春文庫の中で、杉山元帥が昭和天皇を天ちゃんと呼んでます。誰よりも忠実であった元帥が天ちゃんと呼ぶぐらいですから、愛称であると考えてよいかと。

 またも出ました半藤一利.戦後の復員兵たちが昭和天皇に対して用いた蔑称「天ちゃん」を愛称であるかのように昭和史を改竄しているようだが,呆れたものだ.

ただ、皇室制度を強く支持し、昭和天皇を深く敬愛していることで有名な作家の阿川弘之氏の作品にも"天ちゃん"という単語が登場します。(内容は、「天皇絶対」を口にする陸軍がしばし、(昭和)天皇の思いを無視して暴走するのに対し、『天ちゃん』と軽口を叩く海軍は、天皇の意に添う振舞いをしているという趣旨だったと思います)。たしか『軍艦長門の生涯』だったと思います。

 阿川弘之『軍艦長門の生涯』は未読なので何とも言えぬが,海軍将校が愛称的に「天ちゃん」と言うことがあったとしても,それは戦後の庶民が口にした「天ちゃん」とは意味用法が異なる.一般的に戦後使われた「天ちゃん」は身勝手で無責任な昭和天皇に対する蔑称だったのである.

 先の戦争が敗戦となり,兵たちが復員してくると,一部に激しい反天皇の気運が盛り上がった.(これは,反昭和天皇であって,反天皇制ではなかったことを指摘しておかねばならない)
 そのことの例としてよく持ち出されたのが「プラカード事件」であった.
 Wikipedia【プラカード事件】はこの事件に関する訴訟のことしか書かれていないが,法曹家以外の人にとっては裁判のことは大した問題ではない.
 この事件が全国津々浦々にまで知れ渡ったのは,昭和二十一年 (1946年) 五月月十九日のいわゆる「食糧メーデー」に参加した日本共産党員松島松太郎がプラカードに書いた「ヒロヒト 詔書 曰ク 国体はゴジされたぞ 朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民 飢えて死ね ギョメイギョジ」の文言によってであった.

Mayday_for_food_supplies_in_japan_0
(Wikipedia【プラカード事件】から引用;
パブリックドメイン画像である)


 この文言は「国体はゴジされたぞ」「朕はタラフク食ってるぞ」「ナンジ人民 飢えて死ね」などと断片化して使われることはあったが,しかし「天ちゃん」と並んで,戦後の庶民が誰でも知っているところの,昭和天皇を侮蔑する言葉であり続けたのである.
 以上が「天ちゃん」に関する追加説明である.
(続く)

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