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2017年2月13日 (月)

ビジネスマンが書く日本史とは (三)

 先月の記事《ビジネスマンが書く日本史とは (一) 》に《この連載の先が思いやられるが,出口治明氏がトンデモなことを書いたら,またここに報告するとしよう》と書いた.今年一月から始まった週刊文春の新連載《出口治明の ゼロから学ぶ「日本史」講義》のことである.
 それ以後,案の定これがもうどうしようもない内容で,文春の連載記事中では林真理子の《夜ふけのなわとび》といい勝負である.

 例えば先週号 (2/16号) の同連載記事に次のような箇所がある.

《■帝国崩壊と、周辺諸国の王権確立
 そのあと後漢 (最近では東漢と呼ばれています) が崩壊するという大事件が起こります。
 地球が寒くなったからです。気候が良いときはお米がたくさん穫れますから、たくさんの人が養えます。しかし気候が悪くなって倉庫に食糧がなくなると、軍隊も官僚も養えず、大帝国が維持できなくなるのです。

 私が知る限り,後漢の衰退滅亡の原因を《地球が寒くなったからです》と断定した人は,この出口治明氏以外にない.
 まず,地球温暖化を語る際に必ず持ち出される次の図 (引用元は Wikipedia【地球温暖化】;パブリックドメイン画像) を見てみよう.

2000_year_temperature_comparison

 この図において,言うまでもないが,温度を測定する手段がない時代の気温は推定値である.従ってグラフに示された細かい上下動には意味がないので,トレンドを把握すればいいのであるが,後漢の時代 (西暦25年 - 220年) のみならず西暦1000年くらいまで,地球はわずかに温暖化傾向を示しつつ安定した気温であったとされている.
 それでは出口治明氏は,一体何を根拠に《地球が寒くなったからです》と主張しているのか.
 たぶん後漢書に災害と飢饉の記述が多いことから,勝手に地球が寒冷化したのだと独断したのであろう.
 しかしながら地球レベルの温暖化や寒冷化と,ある特定の地域 (例えば華北とか華南とか) における暖かかったとか寒かったという気象の問題は明確に区別しなければいけない.そんなことは高校生の授業レベルの基礎知識である.
 後漢の衰退滅亡は,詳しくは中国史の書物を紐解く必要があるが,幼少皇帝の続出や宦官の跳梁,国家農政の放棄などに理由を求めるのが普通だろう.しかるに地球科学者でも歴史家でもない一般人に,後漢が滅びたのは《地球が寒くなったからです》と何の根拠も示さずに断定されたのでは,読者は唖然とするしかない.繁栄した一つの王朝が滅びてしまうほど地球が寒冷化したのなら,魏などその後の王朝は成立することすらできないはずではないか.浅薄な思い付きでいい加減なことを書くでない.

 それから,後漢の版図では,北部の小麦生産が盛んになったことが知られ,現在に続く粉食文化が始まった時代であるとされる.
 しかるに《気候が良いときはお米がたくさん穫れますから、たくさんの人が養えます》とはどういうことであるか.ひょっとすると出口治明氏は,隣の大陸の食文化史を知らぬのではなかろうか.
 歴史書は,歴史家が,それぞれ専門の時代についての研究成果に基づいて書くものである.従って,週刊文春の《出口治明の ゼロから学ぶ「日本史」講義》は古代から現代に至る通史の講義だというのであるが,そのようなものを会社の経営者に過ぎない人物が余技で書けるわけがない.自分では何もせずに,歴史学者の業績をつまみ食い式に読んで繋ぎ合わせ,いかにも己のもののように雑誌に「講義」と題して書き殴ることが許されるのか.いくら週刊誌の連載記事だからといって,週刊文春編集部と出口治明氏は読者を舐めてはいけない.

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