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2017年2月 9日 (木)

お砂糖をふたつ

 テレビ朝日『じゅん散歩』を観ていたら,高田純次が石川セリの「ムーンライト・サーファー」を歌いながら歩いていた.
 懐かしいなあ,石川セリ.
 若い人は石川セリを知らないだろうけれど,高田純次 (七十歳) や私のような爺さんたちには忘れられない歌手だ.
 石川セリはお世辞にも歌唱力があるとは言いにくく,昭和の終り頃には歌のうまい女性歌手は他にたくさんいたけれど,しかしそれでも彼女は団塊世代の記憶に残る歌をいくつか残した.
 そんなこんなの懐かしさで,石川セリをもう一度聴き直してみようかと思い,ベスト盤を買ってみた.

 そのCDに収録されている「ひとり芝居」の歌詞に《お砂糖はふたつだったでしょう》というフレーズがある.
 北関東の片田舎で,私が高校性だった昔々,喫茶店で使われている砂糖は,現在のようにスティック包装のグラニュー糖ではなく角砂糖が普通だった.
 その後の昭和四十三年,大学に受かって上京すると,東京には普通の喫茶店よりおしゃれなコーヒー専門店なるものがあることを知った.
 大学の前の通りにあったコーヒー専門店に入ると,テーブルの上にシュガーポットが二つ置かれていて,一つにはグラニュー糖が,もう一つにはブラウンシュガーの角砂糖が入っていた.
 昭和四十年代は,角砂糖が次第にマイナーになっていく時代だったようだ.暫くすると喫茶店から角砂糖は姿を消した.
 しかしその角砂糖のおかげで,グラニュー糖をスプーンで採るときも「お砂糖をふたつ」という言い方が残った.

 さて恋人同士は喫茶店に行く.今時,スタバとかドトールなんかでデートするカップルはいないだろうが,昔は喫茶店に行くのがお約束だったのだ.
 昔の喫茶店はセルフサービスじゃないから,店員さんに紅茶なりコーヒーを注文する.
 そしてやがてテーブルに飲み物が届けられると,カップに砂糖を入れるのは女性の役割だった.だから,女の子にとっては,相手の男の好みの甘さが「お砂糖をひとつ」なのか「お砂糖をふたつ」なのかを知ることが,彼の恋人になる第一歩だった.そういう時代があったのである.
 で,ある日,彼女はいつものように彼のカップにスプーンで「お砂糖をふたつ」入れようとする.すると男が,彼女の目から逃げるようにして「あ,俺,最近ブラックが好きになったんだよね」なんて言う.
 こうして彼女の恋は終わるのだった.

 という具合に松任谷由実作詞「ひとり芝居」の時代を解説してみました.
 もっと時代が遡ると,松島詩子「喫茶店の片隅で」がある.
 ここに歌われる喫茶店は,蓄音機と角砂糖があって,セピア色をしている.
 私が大学一年生のとき,中野駅北口に,蓄音機と角砂糖の古びた喫茶店があった.五木寛之の初期の随筆にイニシャルで登場する店だが,今もまだあるのだろうかと思って調べたら,もう十年以上前に閉店したそうだ.

[余談]
 角砂糖を懐かしく思い,買ってみるかと amazon を覗いたら「フランス風角砂糖」があったのだが,箱入りで 1kg はいかにも多量なので諦めた.女性が好みそうな雑貨屋に行けば,ガラスの小さな壺に角砂糖を詰めたものなんかが置いてありそうな気がするが,探しに行ってまで欲しいというものでもない.
 それはそれとして,購入者レビューで某氏が次のようなことを書いている.

私はコーヒーを飲む時、コーヒーに砂糖を使いません。しかし、角砂糖をかじりながら飲むのが私の楽しみです。横浜のニューグランドホテルでも私私 (ママ) 用に角砂糖を準備してもらっています。

 すごいですな.ホテルのティールームに角砂糖をキープしているというVIPさんの投稿だ.
 でも横浜にあるのはニューグランドホテルではなくてホテルニューグランドである.ホテルニューグランドでお茶を飲むなら“ザ・カフェ”か“ラ・テラス”だけれど,ニューグランドホテルにあるコーヒーショップなんて誰も知らない.というわけで,amazon のレビューは嘘でも書いたもん勝ちであります.

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