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2017年2月25日 (土)

鎌倉 石窯ガーデンテラス (三)

 前回の記事に書いた舟田詠子著『パンの文化史』(朝日選書,1998;講談社学術文庫,2013) を取り寄せて読んでみた.
 するとこれ以上なく明快に,人類史上最古の醗酵パンは,新石器時代のトゥワン遺跡 (スイス) で発見されたものであることが詳述されていた.
 遺跡からパン焼き窯が発掘されたとかいう状況証拠ではなく,1976年に,五千年以上前に焼成された醗酵パンの実物が,スイスのビーラー・ゼー湖岸にあるトゥワン遺跡で出土したのである.
 トゥワン遺跡は下層,中層,上層の三層から成るが,中層から五千七百年前に焼かれた醗酵パンの断片が,上層からは五千五百年前の醗酵パンが完全な姿で見つかった.上層出土のパンは写真の画像も示されている.
 前回の記事に書いたように,Wikipedia【パン】に記載されている矛盾,すなわち醗酵パンの発祥の地に関して

(A)
トゥワン遺跡 (スイス) の下層 (紀元前3830-3760) からは「人為的に発酵させた粥」が発見され、中層 (紀元前3700-3600) からは「灰の下で焼いたパン」と「パン窯状設備で焼いたパン」が発見されている。粥状のものを数日放置すると、自然の出芽酵母菌や乳酸菌がとりつき、自然発酵をはじめ、サワードウができる。当初これは腐ったものとして捨てられていたが、捨てずに焼いたものが食べられるだけでなく、軟らかくなることに気付いたことから、現代につながる発酵パンの製法が発見されたと考えられている。

(B)
パンは当初、大麦から作られることが多かったが、しだいに小麦でつくられることのほうが多くなった。古代エジプトではパンが盛んに作られており、給料や税金もパンによって支払われていた。発酵パンが誕生したのもこの時代のエジプトである。

 として,(A) 新石器時代の欧州内陸部と (B) 古代エジプトの二ヶ所が何の説明もなく併記されているが,(B) 説の《発酵パンが誕生したのもこの時代のエジプトである》は明らかな間違いである.
 私も漠然と醗酵パンはエジプトに始まったと誤解していたので,蒙を啓かれた思いである.この原稿を書き始めたのは,テレビ番組に出てきた石窯ガーデンテラスで飯を食うかと思ったのがきっかけだから,一億総白痴なんぞと馬鹿にせずにテレビは観てみるもんだなあと思った次第である.

 Wikipedia には各項目の記述内容を統括する責任者がいない.多数の執筆者が各自勝手な主張を正誤関係なく記述するため,その項目内部での矛盾も項目間の矛盾も修正されないことが多く,百科事典として,これが致命的に近い弱点となっている.執筆者たちの論争になった場合は「ノート」にその旨が書かれているからまだ助かるが,そうでない場合 (執筆者たちが書きっぱなしで放置状態の場合) は,記述が正しいかどうかを利用者が自力で調べ,判断しなければならないのだ.それはつまり百科事典としての意味がないということである.自分で調べられるなら,わざわざ百科辞典は読まぬよ.(笑)
 Wikipedia【パン】の場合がまさにそれで,《発酵パンが誕生したのもこの時代のエジプトである》という誤りについて「ノート」には全く議論のあとが見られない.この項目の執筆者たちは誤りに気が付いていないのである.結局のところ,執筆者たちがこんな有様では Wikipedia【パン】の記述には信頼性がないと考えるべきであろう.

 さて醗酵パンの学術的議論については舟田詠子著『パンの文化史』に譲って先を急ぎ,石窯ガーデンテラスのパンのことに戻る.
 公式サイトの記載を再掲する.

石窯ガーデンテラスのパンの特徴
 ホップ種を使用しています
 ホップ種は、野生のイースト菌をうまく取り込みゆっくり時間をかけて酸味と苦みをマイルドにし、奥深い味を作り出します。毎日の自然環境がその日その日の味を作り出します。酵母と作り手が強調しながら時間をかけて、小麦の甘みとホップの酸味を引き出し、素朴で存在感のあるパンを作ります。

 ホップ種の説明をする.パン作りをする人は知っているだろうが,レストランを訪れる一般客は,ホップ種と言われても何のことやら理解できないからだ.
 ホップ種は「パン種 (ぱんだね)」の一種で,パン種はパンを醗酵させるために生地に入れる「醗酵の元」である.醗酵一般の用語としては醗酵種とかスターターともいう.(Wikipedia【スターター】の1.の語義〈発酵の開始のために加える微生物の集団を含んだもの〉参照)

 既に述べたトゥワン遺跡で発見された古代のパンが何をパン種に用いていたか不明であるが,それ以後の人類は自然界から様々なパン種を見出して使用してきた.
 これも詳しく紹介すると長い説明になるので,ウェブコンテンツ《世界の発酵種 》を紹介する.
 ホップ種については,このウェブページに次のように書かれている.

ホップス種
 ホップス種は現在のパン酵母が普及する昭和初期以前まで、酒種と並びパンの発酵に用いられてきました。ホップの煮汁にじゃがいも、小麦粉、りんごなどを加えて種継ぎを行ってホップス種が作られます。ホップに含まれる抗菌作用成分がホップス種の培養中に製パンに適さない微生物の繁殖を防ぎます。
 ホップス種を用いたパンの特徴は、ホップ特有の苦味といわゆるイースト臭の無い淡白な香りを持ちます。

 石窯ガーデンテラスのパン種が自家製なのかそれとも購入したものかはわからない.
 食べてみた印象は,クセのない風味で,まあまあおいしいパンだと言っていいだろう.
(続く)

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