震災後文学
『泣き童子 三島屋変調百物語 参之続』(角川文庫) 読了.文芸評論家高橋敏夫氏による巻末解説を読む.
『泣き童子』に収められた「第二話 くりから御殿」について氏は次のように解説する.
《三・一一東日本大震災のすぐ後に発表された「くりから御殿」は、一〇歳のとき山津波で両親をはじめ仲良しの幼馴染たちを失った少年の奇怪な夢と、四〇年後の今なお男の心をとらえる痛切な思いをえがく。男の思いをうけた女房の言葉がまた胸をうつ。この短編は、多くの作家による秀作がそろう「三・一一後文学」のなかでも、とりわけすぐれた作品になっている。》
高橋氏が指摘する「震災で生き残った者の痛切な思い」は,「震災」を「戦争」と置き換えれば,戦後昭和の長きにわたって書き継がれた文学的課題に繋がるものであるだろう.
震災後の文学についてネットを検索すると,講談社のサイト《現代ビジネス》に昨年掲載された《作家たちは「3.11」をどう描いてきたのか~「震災後文学」最新作を一挙紹介! 》がみつかる.(筆者は木村朗子津田塾大学教授)
ここで木村氏が紹介している作品を列挙する.
『あの日から―東日本大震災鎮魂岩手県出身作家短編集』(岩手日報社, 2015年)
『呼び覚まされる霊性の震災学―3.11の生と死のはざまで』(新曜社,2016年)
いとうせいこう『想像ラジオ』(河出文庫 2015年,単行本は河出書房新社,2013年)
天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』(文藝春秋,2016年)
彩瀬まる『やがて海へと届く』(講談社,2016年)
吉村萬壱『ボラード病』(文藝春秋,2014年)
垣谷美雨『避難所』(新潮社,2014年)
金原ひとみ『持たざる者』(集英社,2015年)
小林エリカ『光の子ども 1,2』(リトル・モア,2013,2016年)
小林エリカ『マダム・キュリーと朝食を』(集英社,2014年)
多和田葉子『献灯使』(講談社,2014年)
桐野夏生『バラカ』(集英社,2016年)
スベトラーナ・アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り――未来の物語』(岩波現代文庫 ,2011年)
メヒティルト・ボルマン『希望のかたわれ』(河出書房新社,2015年)
津島佑子『ヤマネコ・ドーム』(講談社,2013年)
正直に書くと私は,ここに挙げられた本は『想像ラジオ』しか読んでいない.
これらの作品は amazon で私の書籍リストに入れて少しずつ読んでいこうと思うが,震災後文学,3.11 後文学は,上に挙げた作品がすべてではない.
例えば木村氏が震災後文学として紹介していない『泣き童子』の中で宮部みゆきは,主人公 ちか の口を借りて次のように書いている.(「第六話 節気顔」)
《「… この世には本当に、思いがけないことが起こります。人が生きる道も、亡くなって去っていく道も様々でございます」
残される者の思いもとりどりである。》
これからも残された者のとりどりの思いが書き継がれていくだろう.もしかすると戦後文学と同じように,3.11で被災した少年少女たちが将来,私よりも若い世代の人たち (私自身はもうこの世にいないだろう) の読むべき作品を生み出すかも知れない.
(以下《巡り来る 3.11》に続く)
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