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2017年1月15日 (日)

時代小説の楽しみ

 宮部みゆきさんのファンは,新刊単行本が出版されれば即刻作家買いする人が多かろう.
 以前は私もそうだったのであるが,枕元に本を積み上げて寝床で読むのが好きなので,いつしか文庫本が出てから買うようになった.
 ところが,新刊を必ず買うのなら買い損ないはなかろうが,文庫化を待っている仕方だと,寄る年波で物忘れの多くなった私は買い忘れることがある.

 先日,amazon の中をウロついていて,『三鬼 三島屋変調百物語 四之続』(日本経済新聞出版社) が昨年末に刊行されていたことを知った.
 それはいいのだが,既に文庫になっている『泣き童子 三島屋変調百物語 参之続』(角川文庫,平成二十八年六月初版;単行本は平成二十四年に文藝春秋社から) を読んだ記憶がないのにも気が付いた.買い忘れをしたのである.
 それで早速角川文庫の『泣き童子』を注文したのだが,ことのついでに単行本の『三鬼』も買い忘れのないよう一緒に注文した.

 時代小説を読むと,とにかく勉強になることが多い.書く作家自身が大変な勉強をして書くのだから当然だ.
 Wikipedia【時代小説】に,

 《時代小説 (じだいしょうせつ) は、過去の時代・人物・出来事などを題材として書かれた日本の小説。現代の日本では、明治時代以前の時代 (主に江戸時代) を対象とすることが多い。歴史小説との違いについては、歴史小説を参照されたい。
かつては大衆文学はすなわち時代小説であり、広く庶民に受け入れられた。一般に歴史小説との境界は曖昧であるが、過去の時代背景を借りて物語を展開するのが時代小説であり、歴史小説は歴史上の人物や事件をあつかい、その核心にせまる小説である。

とあるが,ここに書かれていない大切なことは,時代小説は《過去の時代・人物・出来事などを題材として書かれた》小説であるが,登場人物の思考や振舞は現代に生きる私たちのものであるということだ.そこが歴史小説との違いである.
 例えば藤沢周平作品があれ程会社員たちの支持を得ているのは,海坂藩の武士たちの生き方が,現代社会における会社員たちの人生を映しているからに他ならない.
 であればこそ時代小説作家は,作品のリアリティを確保するために,周到に時代考証を行い,時代背景の描写に細心の注意を払う.そして読者は,作者の苦心をきちんと丹念に追っていかねばならない.

 宮部みゆき『泣き童子』も,数ページに一つは調べもの,確認したいことが出てくる.
 私は衣装とか服装の分野に暗いので,ネットで確認しながら読んでいく.一つ例をあげよう.

落ち着きのある深緑色の地に、桜と紅葉を散らした裾模様の入った振袖は、冬枯れの今だからこそ引き立つと、お民は言う。内着は鹿の子絞りの麻の葉模様で、これが振袖の袂から覘く加減を、さっきからお民はしきりと工夫しては首をひねっている。

 ここで《鹿の子絞りの麻の葉模様》を検索する.
 するとたちどころにずらりとその画像が出てきて,あ,これね,知ってる知ってると得心して読み進むのである.

 他には「浅葱裏」なんて言葉も出てきて,これは単に浅葱色の裏地という意味ではなく,田舎侍,下級武士のことであるが,そういうことも一応 Wikipedia で確認しながら読んでいく.読書の楽しみである.

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