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2017年1月25日 (水)

和風接着剤余談 (七)

 前稿に《私の説明ではややこしいので,実際に和弓の競技者である人が書いた文章を例示する》と書いたが,その後の調べで,この引用した文章《「和弓と洋弓の構造的差異」》には致命的な誤りのあることがわかった.以下に少し詳しく説明して誤りを明示したい.

また、和弓は弓の右側に矢を付けます。左手親指の上に矢を乗せるのです。しかし、弦は当然、弓の対称軸である中心に戻ろうとしますから、必然的に矢は右側に飛ぶことになります。それを制御するためにやはり射法においてやや左方にひねりをいれることになります (しかしこれは、射る瞬間に弓を左に振るとかいうのではなしに、左手親指を的に押す感じとともに「離れ」において「胸を割る」ので適切な射法をしていれば勝手にひねりは入っていることになります)。
 またこのとき、弦は曲がる軌道を描きながら弓に戻ろうとするので (これにも理由があります)、弓 (弦) の力をフルに矢に乗せるために矢が離れるときに手の内で弓を回転させます。いわゆるフォロースルーです。だから、射る前は左腕の右側にあった弦は、射た後は左腕の左側にあることになります (これもやはり適切な射法によって自ずからそうなるものであって、意図的に弓を手の内で回転させると「それは弓返りではなしに、弓返しだ」という指摘を受けます)。これは弓の力が可能な限り全部矢に乗る射法で「弓返り射法」といいます。

 この引用文の冒頭に,

和弓は弓の右側に矢を付けます。左手親指の上に矢を乗せるのです。しかし、弦は当然、弓の対称軸である中心に戻ろうとしますから、必然的に矢は右側に飛ぶことになります

とある箇所が間違いなのである.
 この点は,Wikipedia【和弓】にも次のように書かれている.

構造
反り
和弓は全体的に滑らかな曲線を描くが、その独特の曲線で構成された弓の姿を成りと言う。弓に弦を張った状態での姿を張り顔・成り、充分に引いた時の弓の姿を引き成り、弦を外した状態では裏反りと呼び、それぞれ弓の性格や手入れする際に見る重要な要素である。
和弓は基本的に5つの成り場で構成される。下から小反り、大腰、胴、鳥打ち、姫反りと呼ばれ、5カ所それぞれの反発力の強弱バランスによって張り顔は成り立ち、また弓の性能を引き出している。弓の張り顔には江戸成り、尾州成り、紀州成り、京成り、薩摩成り等と呼ばれる産地毎の特徴や、それを作る弓師によってもそれぞれ特徴がある。また射手の好みや癖、材料の個体差から来る要因から弓の成りは一定ではなく、一張り毎に少しずつ張り顔は違う。
和弓は弦を手前に弓幹を向う手に見た時に上下真っ直ぐな直線ではなく、矢を番える辺りで弦が弓幹の右端辺りに位置するよう僅かに右に反らされている。この弦が弓の右端に位置する状態を入木(いりき)と呼び、矢を真っ直ぐ飛ばすために必要な反りとなっている。逆に弦が弓の左に来るような状態は出木(でき)と呼ばれ、これは故障の部類に入り調整が必要となる。
》 (文中の下線は当ブログ筆者が付した)

 実際に和弓を見て見ると,Wikipedia【和弓】の記述の通り,素人である私が見ても明らかに和弓は《上下真っ直ぐな直線ではな》い.僅かに右側に湾曲している.
 すなわち,《「和弓と洋弓の構造的差異」》の筆者は《弦は当然、弓の対称軸である中心に戻ろうとします》としているが,この筆者がいうところの《弓の対称軸》は実は存在しないのである.
 この人,ブログ全体を読んだ限りでは実際に弓道競技者であるとしか思えないのであるが,自分が日頃手にしている弓の構造を理解していない.唖然として驚くしかないのであるが,もっと驚くべきは Wikipedia【和弓】の,小項目[構造] の上にある小項目[特徴] の記述である.

特徴
なお弓本体の右側に矢をつがえて放つと言う構造上、そのまま矢を放てば矢は弓本体に阻まれ、狙いは右に逸れてしまう。このため発射時に左手の中で弓を反時計回りに素早く回転させることでそれを防ぐ。これを「弓返り」(ゆがえり) と言う。
》 (文中の下線は当ブログ筆者が付した)

 これと比較するためにもう一度《構造》から一部引用する.

構造
……
和弓は弦を手前に弓幹を向う手に見た時に上下真っ直ぐな直線ではなく、矢を番える辺りで弦が弓幹の右端辺りに位置するよう僅かに右に反らされている。この弦が弓の右端に位置する状態を入木 (いりき) と呼び、矢を真っ直ぐ飛ばすために必要な反りとなっている。
……》 (文中の下線は当ブログ筆者が付した)

 私が弓を見て確認した限りでは,和弓には Wikipedia【和弓】の《構造》に《矢を真っ直ぐ飛ばすために必要な反り》と説明されている「入木」が存在した.すなわち《構造》の方の記述が正しい.《特徴》に,「入木」がないものとして書かれている記述は誤りである.(同じ大項目の中で小項目間に矛盾があることは,多数の執筆者が寄ってたかって好きなように書く Wikipedia の本質的な欠陥である)
 ここで,和弓の弦を引き絞って矢を放った瞬間の力学的状態を考察してみよう.
(和風接着剤余談 (八) に続く)

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