和風接着剤余談 (五)
前回記事の末尾に《松脂は "pine resin" であって "rosin" ではない》と書いた.
少し横道に逸れるが,以下少し "resin" の訳語「樹脂」について.
Wikipedia【樹脂】にこう解説されている.
《樹脂 (じゅし、resin レジン)
(本来の意味) 植物体から分泌される精油類縁物質の総称。天然に植物に生じた やに状物質。→天然樹脂
有機化学の発達により合成されるようになった、天然樹脂とよく似た性質を持つ物質のこと。近年の工業分野などでは、もっぱらこちらを指す。→合成樹脂》
妥当な説明である.
松脂 (まつやに) は松から採れる樹脂 (この「脂」は水に溶けないものといったほどの意味で,狭義の「脂 (あぶら)」ではない) だから略して松脂の字が当てられたと考えられる .
英語では "pine" から採れる "resin" だから "pine resin" といい,他の植物 (***) が産生するものは "*** resin" と称する.
"resin" と "rosin" については英語版 Wikipedia【Resin】が詳しい.そこに書かれた "rosin" の定義は次の通り.
《 Solidified resin from which the volatile terpene components have been removed by distillation is known as rosin. 》
さて人の善い研究者であった故南亨二先生は講義で「レジンとロジンの混同は,発音が似ているなんてことが原因かも知れませんなあ」と仰ったが,性格の悪い私はそうは思わない.
レジンとロジンの混同誤用を始めた企業の人々は,松脂とロジンの物質としての違いは現物を知っているのだから承知の上だったはず.それでも松脂をロジンと呼んで恥じなかったのは,科学,化学に対する姿勢が真摯なものでなかったからだと言う他はない.
これに対して,阿井上夫氏の《「小説で弓を扱いたい方」のための弓道講座 》や実際に弓道を行う人のブログはどうだろうか.
両者共に,松の樹皮から沁み出た松脂を目で見たことがないのだとは想像されるが,松は特別に深山幽谷に生えているというものではないから,身の回りの自然を見るその気さえ少しあれば,ロジンと松脂が別物であることくらいわかるはずだ.
仮に都会育ちで近くの公園にすら出かけたことがない特殊な人でも,ネットで調べれば松脂とロジンに関する知識は得ることはできる.
それをしないで松脂とロジンを同一視して平気なのは,怠惰と言われても仕方ないだろう.
では,「手薬練引いて」の語源である薬練はどのようなものであったろうか.
(以下和風接着剤余談 (六) に続く)
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