鎌倉のパエリア (十)
目の前の料理を見て「あのー,これって…,」と言いかけた私に,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんはこう言った.
「あ,バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません.それからソースはお代わり自由ですので遠慮なく仰ってくださいね ♡」
Brasserie 雪乃下の公式サイトから,同レストラン謹製バーニャカウダの画像を再掲する.
上の画像で野菜が入っている器は白い磁器と思われるが,私のテーブルに供されたそれは黒っぽい陶器の鉢であった.この料理にはこれ,というやり方ではなく色々な器を使用しているのだろう.
それはそれとして,このバーニャカウダで野菜スティックを器にどのように盛り付けているのかというと,中に煎り大豆が入っているのである.この煎り大豆に野菜スティックを挿してあるのだ.
そしてこの画像を見ると,バーニャカウダを鉢植えの花に見立てて盛り付けられていることがよくわかる.
まあ実際に私のテーブルに運ばれてきた鉢には,画像よりも色の白っぽい冴えない根菜が挿してあり,蕪のような形の根菜のスライスと葉物が二種類煎り大豆の上に載っていて,公式サイトの見本画像に比較するとかなり貧弱な見栄えであったが,それはその日の仕入れの具合によるのだから文句はいわない.
問題は料理の実物が見本より劣るなどということではなく,「バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません」ということなのだ.
私たちの日常の食生活の中で,きれいに飾り付けした料理を目にすることは多い.
例えばそこら辺の普通の料理屋さんでも,刺身の皿は,大根やニンジンあるいは胡瓜などで拵えた各種の「けん」や,あるいは大葉,花穂,茗荷,小菊などをあしらって盛り付ける.
これらの例は,見た目も美しく食欲を起こさせる「飾り」ではあるが,ちゃんとした食材でもあって実際に食べられる.食べ終わったときの皿の様子が見苦しくならぬよう少しだけ食べて残すのが普通だが,いっそ豪快に全部食べてしまっても差し支えない.
ところが Brasserie 雪乃下のバーニャカウダで野菜スティックが挿されている煎り大豆は,歴とした食品であるのに,食べられないのだという.
なぜだ.
考えられる理由はただ一つ.その煎り大豆は食べ物ではなく「使い回しする飾り」だということである.
基本的に料理の一皿には非可食物を載せないのが食品衛生の基礎である.
しかるにこの店では本末を転倒し,自称バーニャカウダ (実はバーニャフレッダ) を鉢植えの花に見立てて飾りたいがためにこれが料理であることを忘れ,「非衛生的な食べられない煎り大豆」に野菜スティックを挿して客に提供している.
なにか根本的なところでこの店の料理人は心得違いをしていると思われた.
(続く)
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