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2016年12月

2016年12月30日 (金)

酸性紙の古書

 一昨日 (12/27) に放送されたテレビ東京「開運なんでも鑑定団」を観ていたら,C・ダーウィン著『種の起源』初版本が出品されたので驚いた.
 この初版本は国立遺伝学研究所の蔵書で,鑑定依頼者は所長の桂勲先生である.
 以前は所員に貸出していた図書であるが,現在は展示室に保管している.今後の管理方法を検討したいので価値を鑑定して欲しいという依頼であった.
 鑑定結果は,やはりそれくらいの歴史的価値はあるよねーというものであったが,それはさておき,私はこの本の保存状態の良さに大層驚いた.
 どういうことかというと,古い本,特に紙が大量に製造されるようになった十八世紀中頃以降の紙には「酸性紙」の問題があるからである.

 Wikipedia【酸性紙】から以下に長文引用する.

酸性紙 (さんせいし、英語:acid paper) は、製造過程で硫酸アルミニウム (硫酸ばんど) 等を用いて製造された酸性の洋紙。
酸性紙はヨーロッパでの工業化に伴う紙の需要に応じ、生産技術が開発された19世紀半ば (1850年代) から大量に製造されるようになった。20世紀に入り、紙の大部分がそれまで主だった植物の繊維から製造した紙から、木材を化学処理してセルロース繊維を取り出したパルプを原料とした酸性紙に取って代わられた。このパルプを網で漉き濾し、乾燥させたものが紙である。
これ以前の技術の紙はインクが滲み、活字や図画などを印刷するには適さなかった。しかし、それを解決するため、製造工程の途中で紙に滲み止めにロジン (松やに) などを原料とした (サイズ剤、サイジング) が施されるようになった。陰イオンを持つ鹸化ロジンエマルションを、同じく陰イオンを持つ紙の繊維のヒドロキシ基に定着させるためには、硫酸アルミニウムを添加して、錯体のロジン酸アルミニウムを形成させる必要がある。しかし、硫酸アルミニウムの持つ硫酸イオンは空気中の水分と反応して紙の中で硫酸を生じ、紙を酸性にする。この硫酸は紙の繊維であるセルロースを徐々に加水分解する作用を持ち、経年変化で次第に紙を劣化させる。
酸性紙は前述のようにセルロースの劣化が起こりやすいため、製造から50年~100年間程経過した紙は崩れてしまう。この問題は本を大量に収集し、長期間保管する使命を持つ図書館で特に問題視され、早くから酸性紙を使用していた分だけ欧米では深刻であり、1970年代頃からアメリカやヨーロッパ諸国を中心に「酸性紙問題」として社会問題となった。酸性紙に塩基性のガスを噴霧し、中和する作業も行われるようになったが、作業の効率に限界があるため、後回しになったものが次々と劣化している。

『種の起源』の初版発行日は1859年11月24日であるから,ちょうど酸性紙が多く使用されるようになった時代の最初の頃である.
 しかし幸運なことに,『種の起源』は酸性紙に印刷されたものではなかった.これは人類の知的財産保存のために大いに喜ぶべき幸運であった.

 さて酸性紙の劣化崩壊といっても実際を見たことのあるかたは少ないであろう.
 私の蔵書に,いままさに崩壊しつつある本があるので,御覧に入れる.

 我が国には,長い年月にわたり刊行が続けられている『日本食品標準成分表』という出版物がある.これは文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会が調査公表している日常的な食品の成分に関するデータ集である.
 歴史的には,昭和六年に出版された『日本食品成分総覧』がその最初である.
 これが改訂されたのは昭和二十二年で,我が国の敗戦後,都市部において未曾有の食糧不足が発生したときであった.
 食料不足が治安維持に危機的状況をもたらしかねないとして,GHQは日本政府に指示して緊急食糧輸入をすることとしたが,何がどのくらい不足しているのか,我が国には基礎的資料がなかった.
 そこでGHQは日本政府に,国民栄養に関する資料の作成を要請したのである.
 この要請を受けた政府は,戦後の食料事情を勘案してとりあえず 104 の食品を選んで栄養成分を分析し,結果を『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』(編集は「日本榮養士會」,出版社は「第一出版株式會社」) にまとめて出版した.言い換えれば,昭和二十二年に都市部の我が国民はわずか 104 の食品しか食べていなかったのである.いかに当時の食糧難が深刻であったか,わかる.

 私が企業で研究所長をしていたある日,偶然のことから古本屋でその『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』を見つけた.
 二十年以上も前に八千円ほどしたから安くはなかったが,占領軍の政策に関わる貴重な学術資料が店頭に出たのを目にした以上は買っておくべきだろうと思って購入したのである.
 中をあらためると,中に戦後の厚生省で使用されていた原稿箋が一枚挟まれていて,鉛筆で記入がなされていた.また書籍中にも数値の訂正や註記が多くあることから,これは厚生省の官僚が所有していたものと推察された.それがやがて御本人が死去されたかどうかして家族が故人の蔵書を古書店に売り払うこととなり,その中にあった『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』が私の目にとまったのだろう.
 家族が故人の蔵書を売ったのだろうと想像されるのは,『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』に挟まれていた原稿箋の書き込みを一読すると,この本はその厚生官僚にとって人生の記念品であったのだろうと思われたからである.つまり誰でもこのような記念品は死ぬまで手放さないと思うからだ.

『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』は,入手したときから酸性紙に印刷されたものであることが歴然としてしていて,丸く焼け焦げた斑点状に劣化していたのであるが,久しぶりに取り出してみると,劣化崩壊がさらに進み,黒く炭化した部分がパラパラと脱落して穴になってしまった.もはや判読できない箇所が多数ある.『暫定標準食品輸入食品榮養價分析表』が刊行されたのは戦後の出版用途の紙が逼迫していた時期であるから,雑誌や新聞に使われるようなザラザラした粗悪な紙が使用されており,それが劣化を一層早めたのかも知れない.

20161229a

20161229b

20161229c

 現在,日本中にこれが何部が残っているか知るよしもないが,そのどれもが私の蔵書と同じく劣化崩壊状態にあるだろう.もちろん国会図書館ではマイクロフィルムとして保存されているから,紙の本が失われても資料としてなくなってしまうわけではないから安心だが,実物がなくなってしまうのはいかにも残念である.
 このままこの本を朽ちるにまかせるか,あるいは,刊行の趣旨を述べた序文の,読めるところだけでもこのブログに掲載しておこうかを考えているところである.

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2016年12月29日 (木)

エピソード8 は撮影終了しているんだって

 昨日書いたキャリー・フィッシャーの訃報の短い続き.
 ソースは不明だが,ネット情報によればスター・ウォーズの次作,エピソード8 は既に撮影が終了しているとのことである.従ってエピソード8 が彼女の遺作となる.彼女が亡くなったことで,予定されていたシナリオに変更があるとすれば,エピソード9 においてだろう.

 エピソード7 で,レイア姫とハン・ソロの息子であるカイロ・レンは,何か特別な苦悩があってというわけでもなく物心ついた初めからフォースの暗黒面に墜ちている厨二病のロクデナシであるのだが,これは,強いフォースは母から受け継ぎ (隔世遺伝だ),ロクデナシは父から受け継いだ.(嘘)
 男として格好いいが,だが家族を顧みず家を出たまま帰ってこない父への憧れと反発が,カイロ・レンが暗黒面に墜ちた理由であろうが,ではなぜレイア姫はカイロ・レンを育て損なったのか.カイロ・レンは果たして母の元に帰るのであろうか.
 母と息子の物語.これが続三部作のテーマの一つであるだろうが,キャリー・フィッシャーが亡くなったことで,母レイア姫はエピソード9 ではCGで描かれることにるのではなかろうか.

 一方,続三部作のヒロインであるレイは,エピソード7 のラストシーンでルーク・スカイウォーカーの娘ではないかと示唆されるのだが,なぜレイは父ルークの庇護の下で成長せず,辺境の惑星でごみ拾い屋として孤独に暮らしているのか.その謎が父と娘の物語の始まりなのである.
 しかしそもそも,ジェダイの騎士に男女の愛は禁じられており,その戒律を守れずにパドメを愛してしまったがためにルークの父アナキン・スカイウォーカーは暗黒面に墜ちたのであった.ではなぜルークは暗黒面に墜ちなかったのか.女 (レイの母) を愛していなかったが子供はできてしまったという話なのか.ありがちだが,父さんが草葉の陰で泣いているぞ最後のジェダイの騎士.

 とまあスター・ウォーズは盛り上がっていくのである.フォースとともにあらんことを.

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2016年12月28日 (水)

レイア姫逝く

 深夜に朝日新聞 DIGITAL などが伝えたところによれば,米国の女優キャリー・フィッシャーが亡くなった.
 彼女は先日,ロンドンからロサンゼルスに向かう旅客機内で着陸直前に発作を起こし,ロサンゼルスの病院に入院していた.容体は安定していると報じられていたのだが.
 最新作『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で私たちは若かりしレイア姫に再会したばかりであるのに,スター・ウォーズの古いファンとしてはまことに残念である.

 気がかりなのは,エピソード7『フォースの覚醒』に続くエピソード8でも重要な役割を演じると思われていたから,その撮影がどうなっていたかである.
 ネタバレでもなんでもないから書いてしまうが,『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』では既に亡くなって久しい俳優ピーター・カッシング (ターキン総督役) がCGI処理で「出演」している.これが実に見事なCGで,私はこれを観て「おおっ」と驚いた.これならば,老いたレイア姫もCG「出演」なら可能ではあるが.

 言うまでもないが,スター・ウォーズ本編六作品は,父と息子の物語であった.
 新しい三部作が,父と娘の物語になるのか,あるいは母と息子の物語になるのか,『フォースの覚醒』を観た限りでは,そのいずれでもあるように予想されたのであるが,キャリー・フィッシャーが亡くなったことで,少しストーリーが変わるかも知れないと思われる.
 とまれ,作品には恵まれなかったが,キャリー・フィッシャーは私たちの記憶に残る女優であった.享年六十.哀悼の意を捧げたい.

(ほんとに余談だが,冥福は「死者が行く冥界での幸福」いう.従って外国人が亡くなった際に,その人の信仰が何かわからないときは「御冥福を祈る」と言わないのが無難だそうである.キリスト教の場合,カトリックでは「御冥福を祈る」ことは構わないが,プロテスタントの一部宗派では死者は冥界に行かずに必ず天国に行けるから「御冥福を祈る」ことはだめらしい.また訃報の文末に「合掌」と書く人が多いが,これも外国人に対しては避けたほうがいいのでは.日本でも,浄土真宗では「冥福を祈る」と死者に無礼なことになるんだとか)

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2016年12月26日 (月)

蕎麦粉のロングパスタ

価格.com》のコンテンツ《価格.comマガジン》に,商品情報記事《ふるさと納税の返礼品としてももらえる人気アイテム! 信州発の手作りキット「そば楽」で作ったそばがめちゃめちゃおいしい! 》という記事が掲載されていた.

 

 この記事で紹介されているのは「そば楽」というキッチンツールで,長野県小諸市の会社「ソニック」が開発したものだ.(ただし類似の商品は以前からある)
 さてこの記事を一読すれば瞭然であるが,これは「蕎麦打ち」の道具ではない.記事の末尾に

 

難しいといわれているそばですが、基本的にくるくる回しているだけでいとも簡単に作れました。今回のように十割そばだけでなく、粉を変えれば、二八そばなど自分の好きなそばを打つことができるのがいいですね。我が家の年越しそばはこれに決定です!

 

とあるが,この「そば楽」は「蕎麦打ち」ではなく「押し出し製麺」という製麺方法の道具である.
 私たちが蕎麦というとき,普通それは蕎麦切りのことであるが,「そば楽」は蕎麦切りとは全く異なる麺を作るものであるから,記事は明らかな間違いである.しかしこの記事の筆者は読者に嘘をつこうと思っているのではないようで,ただ単に製麺についての無知なだけだろう.

 

 昔々,おそらく前漢 (紀元前一世紀頃) の時代に,栽培小麦発祥の古代メソポタミアから,餃子のような食品が中国大陸に伝えられ,これから派生して華北で小麦粉の長い麺を作る方法が考案されたらしい.製法はおそらく現代と同じく麺帯を引き延ばすやり方 (拉麺) である.

 同様にイタリア半島でもロングパスタが生まれた.
 ロングパスタは,古代の製法を私は知らないが,少なくとも乾麺が発明された十六世紀以降は圧力をかけて穴から押し出す「押し出し製麺」がロングパスタの正統的作り方として用いられている.(正統的ロングパスタのアルデンテ食感になじめない日本の若い女性あたりは,正統的でない生パスタがオシャレだとか思っているだろうが,本来のロングパスタではない生パスタは食感がいかにも和風(*1) で,辛子めんたいとか納豆が似合うとは私も思う)

 中国大陸から東へも伝播したが,朝鮮半島では蕎麦粉を「押し出し製麺」で麺に作ることが行なわれた.これが冷麺である.
 ところが日本人は「押し出し製麺」蕎麦の,プツッと歯で噛み切れる固い食感 (冷麺なんかは鋏でジョリっと切ったりする) よりも,「腰」を重視する蕎麦切りを考案して現在に至るわけだ.
 蕎麦にはそんな歴史的背景があるのだが,なにしろ蕎麦切りを作るには修練が要るので,素人には敷居が高い.
 ところが,何ら修行をすることなく,高校生のバイトでも「押し出し製麺」の道具を使えば蕎麦を作ることが可能なのである.
 もちろん蕎麦切りと「押し出し製麺」蕎麦では食感がかなり異なるが,細かいことはいわない低級な蕎麦屋 (本業は牛丼屋) では,客の眼前で「押し出し製麺」した韓国冷麺を茹でて (鍋に押し出し製麺機が取り付けてあり,製麺機から出てきた冷麺が湯の中に落ちるようにセットされている),「打ち立て茹で立て」蕎麦と称して食わせている.うまいかどうかは別として確かにこれ以上の打ち立て茹で立てはない.所用時間は秒の単位だ.(笑)
 客の方も「これは蕎麦切りじゃない」なんて無粋なことは言わないのがお約束だ.冷麺式製法のものではなく,安くてうまい本来の食感の蕎麦が食いたければ,牛丼屋ではなくて小諸そばなどの立食い蕎麦屋へ行けばいいのである.

 ということで,私は別に「押し出し製麺」蕎麦を貶すのではない(*2) が,株式会社ソニックが「そば楽」で「蕎麦を打つ」と言っているのは間違いであることはきちんと指摘しておかねばならないと思う.「家庭でも冷麺を作ることができる」「家庭でも蕎麦を作ることができる」というのが正しい商品説明である.

(*1) Wikipedia【アルデンテ】から引用.
誤解
パスタは一般的に茹で上げた後、うどんやそばのように水で締めないため、その後も余熱で芯まで火が通っていく。そのため、パスタは茹であげたときにアルデンテの状態が好ましいとされる。フライパンでソースを絡めたあとや、皿に盛られ口にする瞬間ではない。
また、日本語にもっとも近い表現は「コシがある」というのがふさわしい。しかし、アルデンテは歯ごたえが残る程度に茹でた状態に対して、コシはグルテンを形成する小麦蛋白のグルテニンが作用によるものなので別物である。ちなみにイタリア語には(欧米語のほとんどには)「コシ」という意味の言葉はない。
》(当ブログ筆者による註;この引用箇所は日本語が拙劣だ.(1)《歯ごたえが残る程度に茹でた状態に対して》→歯ごたえが残る程度に茹でた状態であるのに対して),(2)《小麦蛋白のグルテニンが作用》→小麦蛋白のグルテニンの作用)

(*2) 私が学生だった頃の昔から,あるいはそれ以前から,立食い蕎麦屋に麺を卸している製麺業者には押し出し製麺が普及していた.押し出し製麺を「蕎麦を打つ」と言わなければいいのであって,断面が丸い「押し出し製麺」蕎麦 (中にはもっともらしく断面を矩形にしたものもある) は,もはや私たちの食生活において「蕎麦」として市民権を得ている.と言うよりむしろ私は,押し出し製麺の蕎麦に,昭和という時代に対する懐かしさすら感じるのである.

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2016年12月25日 (日)

徳川埋蔵金伝説

 先日 (12月21日) 放送された《『林修の歴史ミステリー 徳川家260年最大の謎 隠された財宝3000億円徹底解明スペシャル』行った! 見た! 感じた! 発掘現場から林修が緊急リポート! 》を録画しておいたので,昨日再生して観た.
 TBSの公式サイトからこの番組宣伝を引用紹介する.

12月21日(水)よる7時から放送の『林修の歴史ミステリー 徳川家260年最大の謎 隠された財宝3000億円徹底解明スペシャル』は、TBSが1991年から10年以上にわたって放送した『徳川埋蔵金シリーズ』の完結編。およそ8年ぶりに、再度、そして最後の埋蔵金発掘に挑む。
番組はテレビ界の知恵袋・林修をMCに迎える。幕末の徳川家の財政にスポットを当て、果たして黄金が蓄えられていたのか否か、誰がどのように埋蔵したのかを鋭く推理する。埋蔵金に関する古い記録も新たな観点で検討し、発掘現場には最新の機材を投入した。
さらに林も発掘現場を緊急取材し、最新の情報を現地から報告。3000億円とも考えられる徳川埋蔵金、林は何を見、何を感じ、何を語るのか?

 とまあ言いたい放題吹き放題なのであったが,羊頭狗肉とはまさにこのことであった.

『徳川埋蔵金シリーズ』の完結編。およそ8年ぶりに、再度、そして最後の埋蔵金発掘に挑む。

と書いておきながら,完結編とは嘘ばっかり,新事実は一つもなかったのである.
 今回のから騒ぎが《最後の埋蔵金発掘》であるとすると,TBSはもう今後埋蔵金発掘から手を引くということなのだろうか.そのほうがいい.手を引きなさい.
 発掘作業には重機を何台も繰り出して,それなりに費用をかけたから放送せざるを得ないのだろうが,期待してこんな番組を観てしまった視聴者は,私も含めて大馬鹿野郎であった.(恥)
 林先生には,こんな中身のない企画にホイホイと出るんじゃないよと言いたい.
 番組には磯田道史氏がコメンテーターとして呼ばれていたのだが,磯田先生はさすがに学者であるから「と,林先生は言うんですがね」と,いわゆる徳川埋蔵金には慎重にコメントを避けておられた.テレビから出演要請があれば出ることは出ても,つまらぬことは言わない.これが見識というものだろう.雑学芸人の林先生 (笑) とは一線を画しておられたのが印象的だった.

 (しつこいようだが) 雑学芸人の林先生は,江戸時代末期の幕臣,小栗忠順を紹介しつつ,小栗が「徳川埋蔵金」を赤城山に埋めたと主張している.
 私は上州の生まれであるため上野介であった小栗については知識があるし,また幕末の歴史好きにはよく知られていることだが,小栗忠順と「徳川埋蔵金」に関する妥当な見解を Wikipedia【小栗忠順】から引用する.

同年 (ブログ筆者註;慶応四年) 閏4月、薩長軍の追討令に対して武装解除に応じ、自身の養子をその証人として差し出したが逮捕され、翌日、斬首。逮捕の理由としては、大砲2門・小銃20挺の所持と農兵の訓練が理由であるとする説や、勘定奉行時代に徳川家の大金を隠蔽したという説 (徳川埋蔵金説) などが挙げられるが、これらの説を裏付ける根拠は現在まで出てきていない。

安政7年 (1860年)、遣米使節目付 (監察) として、正使の新見正興が乗船するポーハタン号で渡米する。
フィラデルフィアでは通貨の交換比率の見直しの交渉に挑んだ。これは日米修好通商条約で定められた交換比率が不適当で、経済の混乱が生じていたためである。小栗は小判と金貨の分析実験をもとに主張の正しさを証明したものの、比率の改定までは至らなかった

 この渡米のあと,小栗は貨幣の改鋳を行って品位を大きく下げた.仮に米国が反対しようとも,交換比率が不適当であることをすでに認めさせていたので,易々と実行できたようだ.
 この貨幣改鋳 (悪貨は良貨を…を実行したわけだ) によって小栗は,かねて通じていた三井組 (三井財閥) に巨利を供与した.(Wikipedia【小栗忠順】参照)
 この貨幣改鋳で得た利益で,小栗は横須賀の地に製鉄所 (後の横須賀海軍工廠) の建設を行い,この横須賀製鉄所が明治期に,大いに国力増強に寄与することとなったのは周知のことである.
 その辺りをまた Wikipedia【小栗忠順】から引用しよう.

慶応元年 (1865年) 11月15日、横須賀製鉄所 (後の横須賀海軍工廠) の建設開始。費用は4年継続で総額240万ドルで、これが後の小栗逮捕における徳川埋蔵金説に繋がったとも言われるが、実際には万延二分金などの貨幣の増鋳による貨幣発行益により建設費用を賄っていた。》 (下線はブログ筆者が付した)

 小栗はこの国の将来のために,貨幣改鋳に手を染めてでも利益を得て先行投資したのであろう.公金を埋蔵したというのは不当な言いがかりのように私は思う.以上が小栗と「徳川埋蔵金伝説」に関する妥当な見解というものだ.
 ではあるけれど,先日のテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」で曜変天目茶碗の新発見かも知れないことが放送されたこともあり,娯楽番組もバカにはできないと思って『林修の歴史ミステリー 徳川家260年最大の謎 隠された財宝3000億円徹底解明スペシャル』を観たのであるが,いやあTBSには見事にだまされましたわ.トホホ.

 番組内容がトホホだったのはまだいいが,「徳川埋蔵金」の発掘作業が,環境破壊もいいところのとんでもないデタラメなやり方で,これは後々問題になるんじゃなかろうか.群馬県庁の然るべき部署の監督は得ていたのであろうか.
 もしもTBSが地元の土建業者と結託して,番組制作のために勝手なことをしたのであれば,番組を監修する立場にあった雑学芸人の林先生もMCとして責任の一端は免れ得ないと思う.

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2016年12月21日 (水)

曜変天目

 昨日放送のテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」を録画しておいたのだが,今朝再生して観て驚いた.
 お宝鑑定に曜変天目茶碗が出品されていたのである.
 新聞報道を引用する.(毎日新聞 2016年12月20日22時40分)
テレビ東京は20日、鑑定番組「開運!なんでも鑑定団」の収録で、世界に3点しかないとされる「曜変天目茶碗」とみられる陶器が、新たに見つかったと発表した。現存する3点はいずれも国宝に指定されている。

 私は陶磁器方面に無知で,曜変天目茶碗は一度しか観たことがない.もう三十年ほど昔のことだが,大阪市立の東洋陶磁美術館の特別企画展で,同館所蔵の国宝油滴天目 (有名な安宅コレクションから同館に移ったもの) と共に展示された国宝稲葉天目を観たことがあるだけだ.
 「開運!なんでも鑑定団」は軽めのエンタメ番組だから,いつもは観たら消去しているのだが,今回のはとっておくことにする.いや驚いた.

[追記]
 上の記事を書いたあと,大阪市立東洋陶磁美術館・学芸課主任学芸員の小林仁氏と思われるおかたが,「開運!なんでも鑑定団」に出品された「曜変天目茶碗」は贋作であるとネット上で断定しておられることがわかった.
 もしもこの小林氏の主張通りであれば,「開運!なんでも鑑定団」は番組生命を失うとネット上では評判となっている.他メディアによる続報が待たれる.

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2016年12月20日 (火)

辻堂 越後屋担庵

 私のような一般の日本人が『スター・ウォーズ』というとき,それは

オリジナル・トリロジー (旧三部作)
 スター・ウォーズ エピソード 4『新たなる希望』   (1977年)
 スター・ウォーズ エピソード 5『帝国の逆襲』    (1980年)
 スター・ウォーズ エピソード 6『ジェダイの帰還』  (1983年)
プリクエル・トリロジー (新三部作)
 スター・ウォーズ エピソード 1『ファントム・メナス』(1999年)
 スター・ウォーズ エピソード 2『クローンの攻撃』  (2002年)
 スター・ウォーズ エピソード 3『シスの復讐』    (2005年)

の映画六作品を指す.
 ところが『スター・ウォーズ』にはスピンオフ作品群があって,小説に始まり,コミックやアニメに展開されている.日本では全く売れなかったが Windows ゲーム (ただしクソゲー) もあった.(《スター・ウォーズのスピンオフ一覧 》にまとめられている)
 古くからの『スター・ウォーズ』ファンは,これらのスピンオフ作品群に興味はあるが,入手は困難であるし,手に入れても言葉の壁があるだろうから,かなり敷居が高いと思われる.しかもオリジナル映画六作品とは,世界観は共通しているとしても設定に整合性がとれていないものが多いと聞く.

 そんなわけでスター・ウォーズのスピンオフ作品は日本のファンには縁遠かったのであるが,2012年10月にウォルト・ディズニー・カンパニーが本編六作品の制作会社ルーカスフィルムを買収したことから状況が変わった.ウォルト・ディズニー・カンパニーは新たな三部作 (エピソード7,8,9) の製作と共にスピンオフ作品も作ると発表したのである.
 Wikipedia【スター・ウォーズ・シリーズ】からその辺りを引用する.

アンソロジー・シリーズ
実写映画本編を補完する実写映画シリーズ。2013年、ルーカスフィルムがスター・ウォーズのメインストーリーとは別の劇場映画をいくつか製作すると報じられ、2015年4月にアメリカのカリフォルニア州アナハイムで開催された本シリーズのオフィシャルファンイベント「スター・ウォーズ セレブレーションアナハイム」で、これらのスピンオフは「アンソロジー・シリーズ」のレーベル名の下で公開されることが明らかにされた。2016年12月公開の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を皮切りに、2作品の公開が発表されている。

 で,この年末に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』公開の運びとなったのである.
 昨年公開された,本編六作品に続く三部作の第一弾『フォースの覚醒』は,新登場人物の紹介以外には,内容的に本編へのオマージュだけであり,古いファンには納得できても,若い映画ファンには大しておもしろくない作品だったと思う.
 それでは本家スピンオフ第一弾『ローグ・ワン』はどうであったか.
 これがなかなかよかったのである.私は年寄りの『スター・ウォーズ』ファン必見かと思う.
 それはどうしてかというと,本編六作品がジェダイという超人たちの物語であるということと,叙事詩スペース・オペラという作品の性格からして,敗れた者,倒れた者にはほとんど焦点が当てられていないのであるが,一方の『ローグ・ワン』はジェダイが壊滅したあとの物語であるため,登場人物が,超人ではない被弾すれば死ぬ戦士たちだからである.これがために手に汗握るストーリー展開になっているのだ.私は,この作品はヒロイック・ファンタジーとして本編よりもいい出来ではないかとすら思う.
 本編六作品では,単純に反乱軍は善,帝国は悪として語られているのだが,この『ローグ・ワン』では,反乱軍の戦いも汚いものだと反乱軍のスパイであるキャシアン・アンドーは述懐する.
 戦争は,戦う双方ともに殺しあう悪である.当たり前のことだ.戦場で自分が悪であることに心が辛うじて耐えられるかどうかは,戦う大義があるか否かにかかっている.そうでなかったら生きていけないとキャシアン・アンドーは言うのである.第二次世界大戦後,ベトナム戦争もイラク戦争も,米国兵士たちの心に深刻な傷を負わせたのは,いずれも大義なき侵略戦争だったからだ.キャシアンの台詞はそのことを示唆している.
 このようにして,お気楽なエンタメ映画と言い切っていい『スター・ウォーズ』シリーズに,『ローグ・ワン』は初めてリアリティを持ち込んだのである.この作品の監督,ギャレス・エドワーズは若い人だが,Wikipedia【ギャレス・エドワーズ】に次のように書かれている.

キャリア
VFXクリエイターとして、BBCやディスカバリーチャンネルの作品を手がけ、英国アカデミー賞を受賞するなど成功を収めた。2008年にはBBC製作の大河ドラマ『ウォリアーズ 〜歴史を動かした男たち〜』を監督し、250もの視覚効果をすべて自分自身で担当した。また、映画製作の分業化に業を煮やした結果、Sci-FIチャンネルの48時間映画コンテストにてクルーなしで俳優を1人だけ使って製作した短編映画を発表し、グランプリを受賞した。その後、自身にとって初の長編映画での監督作品となった『モンスターズ/地球外生命体』は、低予算映画ながら多くの批評家や映画監督から賞賛され、英国インディペンデント賞にて3部門を受賞し、英国アカデミー賞にもノミネートされた。これらの功績から、『GODZILLA ゴジラ』の監督に抜擢された。その後、2016年公開予定の『スター・ウォーズ』の単独映画を監督することになった。

 ギャレス・エドワーズに本編の監督もやって欲しいと思ったのは私だけではないだろう.
 付け加えると,本作品では,ジェダイの時代に生まれていたらジェダイになれたかも知れない僧兵チアルート・イムウェの奮闘が印象的だった.また使命を果たしたローグ・ワン戦士二人の最後のシーンも美しい.

 話が横に逸れるが,昔の Windows RPG には,ウォーリア,ソーサラー,ローグ (!) の他にモンクという職業設定があった.モンクはすなわち棒術を使う僧兵であり,若い人は知らない (チアルートが盲目であるという設定だけで闘技が棒術であることなどは全く無視し《どう見ても座頭市の勝新じゃねーか!?》と書いている無知なサイトがある.どこの座頭市が棒術の達人なんだよ.座頭市は僧じゃないし<笑>;このウソサイトは検索するとすぐみつかるだろう) だろうが,チアルートのキャラはモンクそのものであることを指摘しておきたい.そういうことも映画を観る上で知っていると楽しい知識である.
 そして,Wikipedia にネタバレ気味に書かれてしまっているが,本編ファンなら「おお,そうきたか!」と思わず口元が緩むラストシーン.これがいい.

 なんだか今年は,くだらないアメコミ実写映画もやたらとあったけれど,いい映画もいくつか観ることができた.
 来年はたぶん新シリーズの第二作 (エピソード8) が出て,つぎの年にはスピンオフ第二弾 (タイトル未定) がやってくるだろう.頑張って長生きしようと思って,映画を観たあと景気付けに昼酒をやることにした.昼酒の言い訳になってないような気がするが,まあそんなことはどうでもよろしい.

 さていつも私が映画を観るのは辻堂駅北口の Terrace Mall 湘南内のシネコンだが,このモールには,高いばかりでおいしくないレストランが多い.婉曲な言い方をやめると,だめなレストランばかりだ.
 それがために映画を観たあとの飯は藤沢駅に戻るしかないと思っていたのだが,『ローグ・ワン』を観たあと,辻堂駅まで歩きながらふと気が付くと Terrace Mall 湘南のすぐ隣に道路を挟んで小さなビル (Luz 湘南) があり,飲食店が幾つか入っているらしい.
 ものは探検だというわけで,その小さなビルの一番上のフロアに行ってみると,
「やきとりセンター」「北海道」「ラ パウザ」「三ツ矢堂製麺」「九州料理ふくまる」「サラダバー けん」「越後屋 坦庵」「温野菜」といった店が入っていた.
 「北海道」とか「温野菜」なんかはお一人様には無縁の店と思うが,「越後屋 坦庵」はどんな店か知らないので,入ってみることにした.
 「越後屋 坦庵」は,品書きをざっと見たところ,どうやら焼魚定食と蕎麦が食える居酒屋といったコンセプトのようだ.ネット情報ではかなり酷い評価も書かれているが,よい店だとする人もいる.

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 本日は様子見というわけで,銀鱈の西京漬,ししゃも (カペリンじゃないやつ),胡瓜の辛子味噌漬,てんぷら盛り合わせを注文した.飲み物は黒霧島と赤兎馬をロック各一.
 料理は,まあまあの出来だと思う.てんぷら盛り合わせは,小さい海老天が三本にキス,かぼちゃ,さつもいも,茄子が盛られていて七百八十円.揚がり方は及第点で,コスパがかなりいい.辻堂に映画を観に来たときの昼酒に贔屓にしようかと思う.
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2016年12月19日 (月)

今日はまた映画を

 先日書いた記事《差別に鈍感な人々 》で,映画評論家の町山智浩氏の著書『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文春文庫) を紹介した.
 この本の「第一章 暴走する宗教」は,米国で福音派キリスト教の過激な布教活動を行っているベッキー・フィッシャー牧師のことから書きはじめられている.
 彼女はキッズ・オン・ファイアという子供教育キャンプを主催しているのだが,キッズ・オン・ファイアの様子を記録したドキュメンタリー映画 (『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』) が2006年に公開 (日本での公開は2010年) されていて,この映画を私は観ていないのだが,町山智浩氏によれば次のようなシーンがあるらしい.

「ハリー・ポッターを知ってますか?」
 子どもたちに大人気のキャラの話から神様の話につなげるのかと思ったら「ハリー・ポッターは神の敵です!」と恫喝し始めた。「魔法使いは悪魔の手先です! ハリー・ポッターは死ぬべきです!」。子どもたちがビックリしてベソをかき始めても、フィッシャーは容赦しない。「この世は罪に満ちています! あなたたちも罪人でしょう? 神はすべてお見通しですよ!」。6歳の子どもに罪なんかあるはずがないのだが、彼らはみんな神の許しを求めて泣きじゃくる。

 『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』に記録されたベッキー・フィッシャー牧師の子供教育キャンプは,子供たちの全人格を否定してそこに教義を叩き込み,「(キリスト教の) 神の戦士」を養成する訓練だと町山氏は書いている.
 無宗教の私からすると,反知性と反科学を標榜し,六歳の子供でもお構いなしに洗脳しようとする福音派キリスト教はもうほとんどカルトにしかみえないのだが,自らを福音派であるとする米国人は実に米全人口の四分の一以上を占めるという.これが米共和党の強力な支持基盤となっているのだ.
 西洋宗教画を観れば一目瞭然だが,神が作った人間は白人である.
 聖書を絶対化する福音派キリスト教徒にとって私たち有色人種は,せいぜい良くて動物 (実際に有色人種を「クリーチャー」と呼ぶ米国人がいる) で,下手をすると悪魔の類である.米国における白人至上主義とはそういうことであるらしい.

 さて話は映画『ハリー・ポッター』シリーズの後継作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』だ.
 よく知られているように『ハリー・ポッター』シリーズは,映画も小説も米国で福音派キリスト教徒の強い拒否反応を招いた.だが『スター・ウォーズ』シリーズではそのような話は聞いていない.
 どこが違うのだろう.
 先週の月曜日に辻堂のシネコンへ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を観に出かけたのだが,これは次の週から上映される『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と比較してみたらおもしろいかもと思った.
 比較は全くおもしろくないかも知れないが,ま,とりあえず今日のシートを予約してあるので,劇場へ足を運ぶとしよう.

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2016年12月15日 (木)

差別に鈍感な人々

 一昨日夜に沖縄県名護市沿岸で起きた米軍垂直離着陸機オスプレイの事故で,一夜明けた昨日の朝,沖縄県の安慶田光男副知事が米軍キャンプ瑞慶覧を訪問し,在沖米軍トップである第三海兵遠征軍司令官のニコルソン四軍調整官に対して事故への抗議文を読み上げた.
 この時のニコルソン調整官の高圧的態度がテレビ等の報道で話題となっている.
 朝日新聞 (12/15 4:08,朝日新聞 DIGITAL 掲載) によると

安慶田氏によると、その際、在沖米軍トップで第3海兵遠征軍司令官のニコルソン四軍調整官の表情はみるみる怒気に染まっていった。ニコルソン氏は「パイロットは住宅、住民に被害を与えなかった。感謝されるべきで表彰ものだ」と述べた。安慶田氏が「オスプレイも訓練もいらないから、どうぞ撤去してください」と伝えると、「政治問題化するのか」などと話し、テーブルをたたく場面もあったという。

 この事故が先の米国大統領選挙の前に発生したものであったなら,ニコルソン調整官の対応はもう少し異なったものであったかも知れない.いずれ軍事や国際政治の専門家が解説してくれると思うが,ニコルソン調整官はもはやオバマ現大統領を見てはいない.この事故の処置については,トランプ次期大統領の日米関係に関するこれまでの発言に沿って行動するだろうと推測するに難くない.

 さてこれまで何冊も出版されている評論家町山智浩氏のレポート (『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』等々) を読むと,南北戦争の頃は別として,現在の共和党の強力な支持勢力にキリスト教右派があり,これが種々の女性差別や移民差別 (実は人種差別) 政策の根源になっていることがよく理解される.
 その共和党の幹部でも,これから次期大統領トランプ氏が打ち出すかも知れない過激な人種差別政策には危惧の念を示しているわけだが,日米軍事同盟の今後を予想するためにはトランプ氏の信仰がどうなのかを知る必要があるだろう.私たちは,かつてジョージ・W・ブッシュにより行われたイラク戦争の背景に,彼のキリスト教信仰 (とコンプレックス) があったことを思い出すべきだ.

 トランプ氏の大統領選勝利が確定した時に,翁長雄志沖縄県知事は祝電を送った.
 この報道を知って私は,人権についてなんというセンスのない知事であるかと耳を疑った.トランプ氏は人種差別主義者であると選挙前から報道されていたではないか.機動隊員に土人と言われて怒った (*) 翁長知事がトランプ氏に祝電を打つなど呆れてモノが言えない.

(*) 毎日新聞 (10/20 1:06 掲載)
米軍北部訓練場(沖縄県東村、国頭村)のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)移設工事を巡り、現場警備に大阪府警から派遣された2人の20代の男性機動隊員が、工事への反対活動をする人に「ぼけ、土人が」などと差別的な暴言を吐いた問題で、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事は19日、「(土人は)未開の地域住民を侮蔑する意味を含んだ言葉で、県民としても知事としても言語道断で到底許されず、強い憤りを感じている」と述べた。
 余談だがこの件について菅義偉官房長官は記者会見で《「不適切な発言を行ったことは大変残念」と指摘。「許すまじきことなので、警察庁においてしっかり対応すると報告を受けている」と述べた》が,大阪府の松井一郎知事は《表現が不適切だとしても、府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました》《出張ご苦労様》と自身のツイッターにねぎらいの言葉を投稿した.さすが日本における差別の本場大阪の知事であるなあと感心した.(この菅官房長官と松井知事の発言も毎日新聞の同じ記事からの引用)

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2016年12月14日 (水)

鎌倉のパエリア (十三)

 料理店の商品は料理である.従って料理店は,店に来て食事をする客に料理の品質を保証しなければいけない.
 料理店が行なわねばならない最低限度の品質保証とは,食品衛生だ.いくら美味でも食中毒のおそれがあっては端から論外なのだ.食べて安全安心な食事であってこその,うまいまずいに違いない.
 Brasserie 雪乃下のなんちゃってバーニャカウダのことだが,何が目的で「食べられない煎り大豆」に生野菜のスティックを挿して鉢植えの花に見立てるという盛り付けをしたのか,その必然性が不明だ.厨房の人間の基本姿勢に問題がある.
 また同レストランの雪乃下パエリアは,レシピを作った本人が試食していないのではなかろうか.
 税込み千八百五十円なら,もっとずっとまともな料理が作れるはずだ.例えば大手のファミレスが「スペイン料理フェア」を企画したら,もっとコスパの良い料理を提供できると思う.
 小町通りや若宮大路の飲食店にはこんな店が多いのだが,なぜこんな店がはびこるか.
 つまるところ鎌倉の繁華街は観光地であって,顧客満足度が低くても,一見客だけでやっていけるからだろう.

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〈レストランへの階段〉

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〈バーニャソースをテイクアウトしたのは,容器に表示が適切に書かれているかどうかを確認するためである.結果は全然ダメだった (笑)〉

 ちなみにフランス料理店を名乗りながら釜揚げシラス丼だのハヤシライスだのをメニューに載せている料理人がどんな人物かと興味が湧いたので,同店公式サイトの料理人紹介を見てみたら次のように書かれていた.

料理専門学校卒業後、単身スイスへ渡り5年間の修業を経て帰国。その後、神奈川・東京を中心に11年間料理人を務めた後、現在の【Brasserie雪乃下】に料理長として就任。

 フランス料理を勉強するならフランスに行くだろうから,スイスで修業したことがフランス料理店 Brasserie 雪乃下の無国籍化に大いに寄与したのであろう.なるほど.
 余談だが,藤沢駅の近くに「イタリアン居酒屋」と称する居酒屋「トラットリア ピラータ~TRATTORIA PIRATA~」がある.
 いかにもわざとらしくイタリアっぽい名の店のシェフの経歴は,同店のサイトにこう書かれている.

高校卒業後、飲食店でバイトを始め、その後磯料理屋にて修行!

 磯料理屋でイタリア料理を覚えたという非常に興味深い経歴である.おもしろそうなので出かけてみようかと思ったが,公式サイトは「女子会向き」の店だとアピールしていて,爺さんには敷居が高そうなので諦めた.(笑)

 ま,そんなこんなでこの日の昼飯は大変に不満足なものであったと長々と書いてみたが,この日鎌倉に出かけたそもそもの目的は「松本竣介 創造の原点」展だったのだ.書いているうちに忘れそうになった (笑) が,こちらはとても良い絵画展であった.会期残すところ十日.まだのかたは是非.

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2016年12月11日 (日)

鎌倉のパエリア (十二)

 私のテーブルに置かれた Brasserie 雪乃下の雪乃下パエリアを見て驚いたことは,二点ある.
 一つは同レストラン公式サイトに掲載されている料理画像とかけ離れた外観であったこと,もう一つは既に述べたように,これが注文後たった十五分で運ばれてきたことである.

 前稿に載せた画像を再掲載し,この画像と実際の料理実物との比較を以下に記す.

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 上の料理の画像を見ると,パエリア鍋の左奥にムール貝がある.その手前に殻付きアサリがあり,またムール貝の右側に有頭エビの頭と思われるものがある.

 料理画像はそのようになっているが,私の目の前の雪乃下パエリアには殻付きアサリではなく,剥き身のアサリが使われていた.指の爪ほどの大きさのかなり小粒の,おそらく業務用の水煮であろう.
 パエリアという料理はスペインの伝統食で,本来の作り方はほぼ決まっている.すなわち種々の具材からでる出汁で米を炊くのである.私たちが国内のスペイン料理店 (地中海料理店などのジャンルも含め) で魚介のパエリアを食べるとき,ほとんどの場合は有頭エビが用いられている.この有頭エビの頭胸部の旨味が大変においしいからである.
 家庭で魚介のパエリアを作る場合の材料は,何でもいいようなものであるが,有頭エビや殻付きアサリ,特に有頭エビを使わず,冷凍食品のシーフードミックスなんぞを使おうもんなら一気にパエリアらしさはなくなり,それは単なる洋風炊き込み御飯とでもいうべきものとなる.剥き身の冷凍エビや水煮アサリからはほとんど旨味がでないからである.パエリア的雰囲気を醸そうとして,大いに奮発してサフランを使ったとしても何の意味もなくなってしまうのである.

Valencianpaella

サフランはスペインのバレンシア風パエリアを構成する3つの主材料1つであり、その鮮やかな黄色の元でもある。
(画像とキャプションは Wikipedia【サフランの取引と利用】から引用.
画像<File:ValencianPaella.jpg> はパブリック・ドメイン [出典:ウィキメディア・コモンズ <Wikimedia Commons> ])

 もしもある日,貴兄のご家族が「今日の夕ご飯はパエリアですよ」と言ったとしよう.そして出てきたものをみたら具材がシーフードミックスだったとする.そうしたら「この炊き込み御飯はおいしいね」と言ってほめてあげよう.それを決してパエリアと呼んではならぬ.
 では,Brasserie 雪乃下の雪乃下パエリアに使用されていたエビは何だったか.
 驚くべきことに,冷凍のシュリンプだったのである.冷凍食品の安価なシーフードミックスに入っているアレだ.大きさは米菓の柿の種ほど.
 ムール貝については,生の冷凍品だったか水煮の業務用食材だったか,流通しているムール貝に関する知識が私にはないので,よくわからなかったので言及しない.
 しかし,このムール貝の身が,干からびて固くなっていたことは指摘せねばならぬ.
 また剥き身アサリも縮んでゴムのような食感になっていた.
 炊かれた米の上には,切手二枚ほどの大きさにスライスした根菜 (たぶん鎌倉野菜なのであろう) が少し載せてあり,この野菜もあわれにしなびていた.
 この状態を見るに,パエリア鍋ごとオーブンで焼いたのではなかろうかと思われた.
 さらに,パエリアを炊くと普通はオコゲができるのであるが,雪乃下パエリアにはオコゲがなかった.
 Brasserie 雪乃下の厨房を実見したわけではないから何とも言えないが,料理に要した時間が十五分程度だったこととあわせて考察し,後日に再現を試みた.
 まず,具なしのサフランライスをフライパンで炊く.この時に水はコンソメスープの素を用いた.
 これが冷めてから小さな耐熱鍋に移し,上に大根の薄切りを載せ,その上に amazon で購入した冷凍ムール貝を解凍したものとアサリ水煮缶詰を載せてオーブンで焼いた.冷凍シュリンプは少量包装が入手できなかったので省略した.
 首尾はどうであったか.要するに作り置きを再加熱するわけであるから短時間でできること,炊かれた米と耐熱鍋とのあいだにオコゲがなかったこと,ムール貝とアサリが乾燥してしまったことなど,似たようなものが再現できたと満足いく結果であった.よかったよかった.ヾ(- -);
 もう一度言うが私は Brasserie 雪乃下の厨房を実見したわけではないから何とも言えないが,作り置きを再加熱するやり方で雪乃下パエリアと似たようなものを作ることが可能である.
 私が食べた雪乃下パエリアの料理としての出来栄えは,これはもうパエリアとは言いにくいものであった.藤沢の人気スペイン料理店のパエリアよりも高い値段で,しかもファミレス以下の味だと私は思った.
 こんなものがパエリアか? 食べながら私はそう呆れた.しかしよく考えるとこれはパエリアではなく雪乃下パエリアという創作料理だと考えられ,だとすると優良誤認のおそれはあるものの,“同レストランのメニューにバーニャカウダと書いてある料理が実はバーニャフレッダである”という明らかな詐称と比較すれば,まだましなレベルのダメさかげんであると思われる.よかったよかった.あーよくない.
(話は余談だが,出てきた料理を見て「公式サイトの料理画像と実物が違うじゃん」なんてことが,すぐその場で確認できるとは,ほんとによい時代になったものだ)
(続く)

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2016年12月 8日 (木)

鎌倉のパエリア (十一)

「食べられない煎り大豆」の入った器に野菜を盛り付けた自称バーニャカウダ (実はバーニャフレッダ) を見て私は困惑した.
 血の気の多い人間なら「食えないものと野菜を一緒に盛り付けてるけど,これって衛生的にどうなの?」とクレームを付けるところだが,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんに凄んでみせるのは気が進まなかった.
 そこで一応,目視で煎り大豆に異物が混入していないか観察して,明らかな異常はないようなので,千円以上する料理なんだから我慢して食べることにした.
 料理としては大いに問題があるものの,食べてみたら食材の鎌倉野菜はなかなかうまかった.この辺りの野菜生産者はいい仕事をしているのだろう.

 さて,以上が本稿「鎌倉のパエリア」の長い前置きだ.ここから本文に入る.
 Brasserie 雪乃下の自称バーニャカウダ (しつこいが,これは詐称であり,実はバーニャカウダではなくバーニャフレッダである) を半分食べたところで,メインの雪乃下パエリアが私のテーブルに届けられた.
 注文してからおよそ十五分であった.
 これはどうしたことだ.私は心の底から驚いた.
 これでは,パエリアができ上るまでバーニャカウダ (ほんとにしつこいが,バーニャカウダを注文したのに,出てきたのはバーニャフレッダだった) をゆっくりと食べながら昼飯を楽しもうとした私の深謀遠慮が台無しではないか.
 鎌倉野菜をゆっくり楽しんでいたら,パエリアが冷めてしまう.どうしてくれるんだ.責任者は出てきなさい.

 さてネット上でパエリアのレシピをいくら検索参照しても,十五分ででき上るパエリアはみつからない.
 例えば標準的なパエリア調理例として《スペイン人に教えてもらった究極の「シーフードパエリア」が激ウマ 》では,四十分ほどかかる.
 また「時短」を謳っている《ホットプレートで冷凍食品を使った時短パエリア 》を読むと,冷凍食品を使っているのでお手軽ではあるが,時間的には劇的に時間短縮というわけではなく,やはり作るのに三十分以上はかかる.
 しかるに Brasserie 雪乃下のパエリアは注文後十五分でテーブルにやったきたのである.これが驚かずにいられようか.

 もう一つ驚いたことがあった.
 次に示す画像は,Brasserie 雪乃下の公式サイトをブラウザで表示し,そのスクリーンショットをトリミングしたもので,同レストラン謹製雪乃下パエリアの画像である.

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 これが,(異常にしつこいがこれは詐称で〈以下省略〉) 私に届けられた料理と全く見た目が違っていたのである.
(続く)

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2016年12月 6日 (火)

鎌倉のパエリア (十)

 目の前の料理を見て「あのー,これって…,」と言いかけた私に,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんはこう言った.
「あ,バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません.それからソースはお代わり自由ですので遠慮なく仰ってくださいね

 Brasserie 雪乃下の公式サイトから,同レストラン謹製バーニャカウダの画像を再掲する.

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 上の画像で野菜が入っている器は白い磁器と思われるが,私のテーブルに供されたそれは黒っぽい陶器の鉢であった.この料理にはこれ,というやり方ではなく色々な器を使用しているのだろう.
 それはそれとして,このバーニャカウダで野菜スティックを器にどのように盛り付けているのかというと,中に煎り大豆が入っているのである.この煎り大豆に野菜スティックを挿してあるのだ.
 そしてこの画像を見ると,バーニャカウダを鉢植えの花に見立てて盛り付けられていることがよくわかる.
 まあ実際に私のテーブルに運ばれてきた鉢には,画像よりも色の白っぽい冴えない根菜が挿してあり,蕪のような形の根菜のスライスと葉物が二種類煎り大豆の上に載っていて,公式サイトの見本画像に比較するとかなり貧弱な見栄えであったが,それはその日の仕入れの具合によるのだから文句はいわない.
 問題は料理の実物が見本より劣るなどということではなく,「バーニャカウダの中に入ってるお豆は飾りですので食べられません」ということなのだ.

 私たちの日常の食生活の中で,きれいに飾り付けした料理を目にすることは多い.
 例えばそこら辺の普通の料理屋さんでも,刺身の皿は,大根やニンジンあるいは胡瓜などで拵えた各種の「けん」や,あるいは大葉,花穂,茗荷,小菊などをあしらって盛り付ける.
 これらの例は,見た目も美しく食欲を起こさせる「飾り」ではあるが,ちゃんとした食材でもあって実際に食べられる.食べ終わったときの皿の様子が見苦しくならぬよう少しだけ食べて残すのが普通だが,いっそ豪快に全部食べてしまっても差し支えない.
 ところが Brasserie 雪乃下のバーニャカウダで野菜スティックが挿されている煎り大豆は,歴とした食品であるのに,食べられないのだという.
 なぜだ.
 考えられる理由はただ一つ.その煎り大豆は食べ物ではなく「使い回しする飾り」だということである.

 基本的に料理の一皿には非可食物を載せないのが食品衛生の基礎である.
 しかるにこの店では本末を転倒し,自称バーニャカウダ (実はバーニャフレッダ) を鉢植えの花に見立てて飾りたいがためにこれが料理であることを忘れ,「非衛生的な食べられない煎り大豆」に野菜スティックを挿して客に提供している.
 なにか根本的なところでこの店の料理人は心得違いをしていると思われた.
(続く)

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2016年12月 3日 (土)

鎌倉のパエリア (九)

 前稿の終わりに私は《ドドーンとバーニャカウダが登場した》と書いた.

 余談だが,このブログでは資料から引用をする際に,当該引用箇所を《斜体フォント》で示すと共に,ネット上の資料である場合はその資料への参照をリンクで示すことにしている.
 しかし元の資料が引用後に編集されたためにリンク切れが生じることも間々ある.
 そこで,やむを得ない場合には引用方法としてリンクではなく,当該サイトをブラウザで表示してそのスクリーンショットを使用することもある.
 この記事で,Brasserie 雪乃下のバーニャカウダについて書くにあたっては,言葉で書き表すのでは不十分であると考え,上述の二番目の引用方法を用いることにした.
 すなわち,公式サイトに掲載されている Brasserie 雪乃下のバーニャカウダは,次に示す画像のごときものである (2016年12月3日現在) が,私の席に運ばれてきたバーニャカウダは,その画像と少し異なるものであった.それについて以下書く.

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 まず料理の外観について.
 Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダの本体というか野菜は,画像ではボウルに大変彩り豊かに野菜スティックが盛り付けられているが,私のバーニャカウダは彩り少なく地味なものであった.画像の料理を春のお花畑に譬えるとすれば,私のバーニャカウダは,そろそろ収穫期も過ぎようかという季節の大根畑の,夕暮れのしみじみとした風情なのであった.
 しかしこれについては,野菜には端境期というものがある上に,さらに当日に限って仕入れであまり彩りよいものが多種類手に入らなかったかも知れないので,それは酌量すべきであろう.そんな日に昼飯を食いに来た私が不運だったと諦めれば済む話だ.
 次に画像では,キャセロール用の鍋を模した小さな蓋付の容器にソースが入っているが,私のテーブルに置かれたのは,ごく普通のふた無しの白いココット皿に入っていた.
 しかしながら食器でソースの味が決まるわけではない.私はそんなことに文句をつけるような尻の穴の小さい男ではないのだ.(尻の穴が大きいと大人物であるということになっているが,それはなぜなのか.大問題ではあるが,いずれ稿を改めて触れることにして先を急ぐ)
 Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダについて指摘すべき重大な問題は外観ではない.
 イタリア料理の初歩知識があれば誰でもすぐ気が付くことであるが,これはバーニャカウダではないのだ.
 Wikipedia【バーニャ・カウダ】には次のようにある.

バーニャ・カウダ(ピエモンテ語:Bagna càuda)はイタリア・ピエモンテ州を代表する冬の鍋料理である。ピエモンテ語で「バーニャ」は「ソース」、「カウダ」は「熱い」を意味する。
冷たいソースを使う場合はバーニャ・フレッダ、もしくはバーニャ・フレイダ(Bagna Freida.Freidaはピエモンテ語で「冷たい」を意味する)と呼ばれる。

 しかしわざわざWikipedia【バーニャ・カウダ】を調べるほどのことはない.どこのイタリア料理店でも,バーニャカウダはソースを温める専用鍋と共に供されるものだと私たちは知っている.
 つまり,Brasserie 雪乃下謹製バーニャカウダは,実はバーニャカウダではなく,冷たいディップソースで食べるバーニャフレッダだったのである.
 これは何かの間違いに違いない.私はそう思った.
 ところが,目の前の料理を見て「あのー,これって…,」と言いかけた私に,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんが言った一言は,どんなに尻の穴が大きくてまるでビール瓶のような大便を放出する大人物でも腰を抜かすほどのものであった.
(続く)

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2016年12月 1日 (木)

鎌倉のパエリア (八)

 私が接客係の娘さんに雪乃下パエリアとバーニャカウダを注文し,さてとばかりに周りのテーブルに目をやると,既にあらかたの席はうまっており,そして私の席から見える限りそのすべての席に老若の女性客が着いていた.つまり爺さんの私が本日たった一人の男性客のようだった.
 まあ平日の小町通りのレストランは婦人客で満員になるものなんだろうなあ.そのあいだ男たちは外回りの営業に出たり,工場で機械の整備なんぞを忙しく立ち働いているわけだが.
 てな感慨にひたる間もなく,雪乃下パエリアの前菜が運ばれてきた.ランチの献立はすべて前菜とセットになっているとメニューに書かれているのだ.
 その前菜は,木製のトレイに小鉢が二つと,コーヒーカップよりもかなり小さなカップが載せられていた.
 そして笑顔が素敵な接客係のお嬢さんは「前菜のサラダとピクルスとスープになります」と言った.
 「スープ」はポタージュで,量は五十ミリリットルほどであった.まるでおままごとのようで,幼少時に隣家のさっちゃんとおままごとをして遊んだ記憶が脳裏に浮かんで懐かしい思いがした.
 小鉢の「ピクルス」はサイコロくらいの大きさにカットした大根が三つで,食べてみると,私には大根を調味液に漬けた浅漬けとしか思えなかった.
 ピクルスというのは,根菜などを乳酸発酵させたもので,風味はこの前菜の「ピクルス」とは全く異なるものだ.何かの間違いで,賄い用の大根の浅漬けとピクルスとを間違って出してしまったのだろう.きっとそうに違いない.
「サラダ」の小鉢には,ニンジンの「敷きづま」が一つまみ入っていたが,それだけで他に何も見当たらない.これはいったいなんだ.
 ちなみに「敷きづま」とは,大根またはニンジンを極細に切ったもので,刺身の下に置くものをいう.スーパーで売っている刺身のパックは,発泡スチロールトレイに大根やニンジンの「敷きづま」を並べ,その上に大葉を載せ,刺身を大葉の上に置いたら,菊の花や海藻をあしらって包装してあるのが普通だが,アレが敷きづまである.
 詳しくはこのサイトを参照頂きたい.
 
 そのニンジンの敷きづまが私の前の小鉢にあるのだが,よく見るとドレッシングがかかっている.ということは,これがこの店では前菜の「サラダ」なのかも知れない.
 余談だが,大根やニンジンの敷きづまは,安価な専用の道具が販売されているので簡単に作れる.一例として千葉工業所製の「回転つまきり君」を紹介する.これは実に見事に刺身のつまが作れる道具だが,しかし刺身のつましか作れないという大きな問題があるので,家庭で購入するのは控えたほうがいいだろう.

 で,笑顔が素敵な接客係のお嬢さんは「前菜のサラダとピクルスとスープになります」と言ったが,いつまで待ってもこの「サラダ」はサラダになりそうもなかったので,仕方なく,刺身を食べ終わったあとの皿に残った敷きづまを名残惜しくつまんでいるような寂寥感漂う「サラダ」を食べた.名古屋の「モーニング」のサラダみたいなものを出せとは言わぬが,しかしもう少しなんとかならなかったものか.
 そして大根の浅漬け風「ピクルス」とおままごと風「スープ」も食べたところで,ドドーンとバーニャカウダが登場した.
(続く)

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