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2016年11月 1日 (火)

現実と虚構 (七)

 前稿《現実と虚構 (六) 》の末尾に私は次のように書いた.

この説は,哺乳類の発生過程を観察した結果に基づいてヘッケルが提唱して以来,ほとんど進展がなく,むしろヘッケルが示したデータには信用性がないとの批判もあり,「個体発生は系統発生を繰り返す」の文言だけが有名なのが現状だと思われる.
 この「個体発生は系統発生を繰り返す」の学問的な重要性はともかくとして,これが一般によく知られているフレーズだということを,「シン・ゴジラ」は活用したのである.

 評判になった映画作品には大抵の場合,数多くの「ネタバレサイト」が作られる.
 著名な映画評論家は無論そんなサイトは作らないので,まあ一般映画ファンが資料を調べもせずにテキトーなことを書いたものがほとんどだ.しかしもちろん,おお!とうなってしまうサイトもあって,私も「そういう観点があったのか!」と教えられることもまた多い.
 だがここでは「資料を調べもせずにテキトーなことを書いた」サイトの一つ,

ゴジラ
ネタバレ考察『シン・ゴジラ』のストーリーを暴く ~人類を救おうとした牧教授~

 
を紹介しよう.長いが引用する.

①シンゴジラの元となる生物が、海中に生息していました。これがどういった生物かは分かりませんが、とりあえずパンフレットでデザイン元と述べられていた深海ザメの「ラプカ」と仮定しておきます。
②諸外国が放射能廃棄物を投機し、ラプカがこれを食べます。(もしくは食べずとも放射能汚染)
③ラプカは放射能に汚染されます。ラプカは苦しみ、その環境で生き抜こうとしました。結果、放射能を無効化する力を身につけ、突然変異生物「シンゴジラ第0形態」となります。
④米国エネルギー省(DOE)が、シンゴジラ第0形態を発見。研究を始めます。
⑤牧教授も、なんらかのツテでこの研究に参加します。
⑥米国エネルギー省(DOE)がシンゴジラ第0形態を研究し結果、以下の様な特性がある事を発見します。
・ある作用を与えると、放射能を無効化する効果を発揮する。
・ある作用を与えると、世代交代を介さず(死を超越して)に急速に進化していく。魚類→両生類→爬虫類の生物進化の過程を瞬時に歩み、その先にある生態系の頂点に君臨する完全生物(それが第4形態)に行き着く。つまりシンゴジラ第4形態が、人間とは対になるもう一つの生物の完成系。

 映画「シン・ゴジラ」について,伏線や暗喩など様々な考察をするのは大変によろしいのであるが,ただ,明らかに科学の常識からかけ離れたことを書くのは,その考察のリアリティを失うことになる.「資料を調べもせずにテキトーなことを書いた」サイトになるのを避けるには,「調べて書く」ことが必要だ.
 上の引用中,色を変えた箇所《世代交代を介さず(死を超越して)に急速に進化》の部分が,まさに筆者の勝手な思い付きであり,「進化」とは何かを少しでも調べれば,《個体発生は系統発生を繰り返す》という説の存在を知り,こんなバカな間違い考察はしなかったはずなのである.
 実はこの《世代交代を介》さない《進化》という表現は,山ほどできた「シン・ゴジラ」ネタバレサイトに頻繁に出てくるのである.他には「個体進化」などという,いかにももっともらしい造語を用いているサイトもあるが,同じ意味である.
 もう余りにも基本的なことなので,改めて指摘するのも嫌になるが,進化ということは《世代交代を介》さずには存在しないのだ.
 教科書や専門書を読む必要はない.Wikipedia【進化】だけでも調べてから書いてくれ.
 そこにこう定義があるのを見つけるだろう.

進化
進化 (しんか、羅: evolutio、英: evolution) は、生物の形質が世代を経る中で変化していく現象のことである。

 《世代を経る中で》,つまり進化は世代交代をする中で生じる.
 一つの生物個体の生殖細胞に生じた遺伝子変化が,数世代にわたって修復されずに伝えられ,定着することを進化というのである.
 これは言葉の定義の問題なのであるから,生物一個体における経時的形質変化 (例えば芋虫が蛹を経て蝶になるようなこと) を言いたいなら「進化」という言葉を使ってはいけないのだ.
(続く)

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