« 日本でも進化論を教えなかった時期があった | トップページ | 内紛定食 »

2016年11月11日 (金)

米国のダークサイド

 トランプ新大統領誕生が確実になったとき,テレビの報道番組で,クリント・イーストウッドの SNS での発言が紹介された.
 それは《シュワルツェネッガー,銃を撃ちに行こうぜ》という趣旨のものだった.銃規制を政策とする民主党の議会における退潮と,共和党の候補であるトランプの当確を祝って銃を撃ちに行こうという意味だ.

 イーストウッドもシュワルツェネッガーも,妊娠中絶や同性結婚を擁護するとか米国による海外侵略戦争 (昔のベトナム戦争や,ブッシュ共和党のやったイラク戦争など) に反対するなど,中道寄りではあるが,しかし思想的には歴とした共和党員だ.
 色んな政策で中道寄りにみえても,結局のところイーストウッドは多数派の共和党員と同じく,誰もが銃で武装できて,銃で他人を撃ち殺してもかまわない社会を支持しているわけで,それを《シュワルツェネッガー,銃を撃ちに行こうぜ》が示している.
 作家であり映画評論家である小林信彦氏はイーストウッド作品を高く称賛する人だが,銃規制について小林氏はどう考えているのだろう.私は銃で他人を不当に撃ち殺してもかまわない社会 (例えば「日本人留学生射殺事件」を参照) を憎む人間である.
 四年前のオバマ再選の前に,ジャーナリストの冷泉彰彦氏がニューズウィーク日本版に寄稿したコラム「共和党大会に登場したクリント・イーストウッド、賛否両論の背景とは? 2012年09月03日」では,イーストウッドの政治的立場について次のように書かれている.

クリント・イーストウッドの作品を見たことがある人なら、そこある強烈な「正義感」とか、その延長での「弱者への誠実な視線」あるいは「腐敗した権力への厳しい眼差し」を感じると思います。
クリント・イーストウッドの立場は、個々の人間が倫理的であれということです。つまり「スタイリッシュなリバタリアニズム」あるいは「道徳的なコミュニティ思想」とでも言うようなものです。とにかく国家権力は個々人の価値観や行動に介入すべきでないとして、その代わりに個人の側から自主的に秩序を形成すべきだというのです。また、仮に政府が何らかの権力行使を行う場合は、個人以上に高い倫理性が求められるというのです。
例えば、彼の作品では倫理的な観点からの権力への批判というのは大きなテーマになっています。アンジェリナ・ジョリーを主役に起用した『チェンジリング』では、ロス市警とロス市役所の腐敗に対して手厳しい描写をしていますし、「硫黄島2部作」の中のアメリカ側の視点の方である『父親達の星条旗』ではプロパガンダに利用された兵士達の苦悩を描く中で、権力への倫理的な批判を徹底しているわけです。

 冷泉彰彦氏はこのように,小林信彦氏と同様に,イーストウッドを手放しに高く評価している.
 しかし,日本と比較して異常なほどの格差社会の頂点に住みつつ,「理由なく銃で殺されない権利」よりも「武装の自由」を優先するイーストウッドが説く《強烈な「正義感」とか、その延長での「弱者への誠実な視線」あるいは「腐敗した権力への厳しい眼差し」》が一体いかなるものであるのか.私はもっともらしい偽物であると考える.

 小林信彦氏と同業の映画評論家である町山智浩氏 (米国在住) は心底からのリベラリストで,雑誌などに書いているコラムをまとめた一連の著書『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』や『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』など (いずれも現在は文春文庫にある) で,米共和党の暗部を私たちに教えてくれる.
 選挙戦中の「暴言」はともかく,これから打ち出されてくるトランプ次期大統領の政策は,トランプ氏の思想信条に基づくものに違いない.それがどんなものであるかは,解説は巧みにするが自分の思想は語らない報道芸人の池上彰 (テレビ東京の大統領選特番を観た視聴者はほんとにがっかりしただろう) ではなく,町山智浩氏のコラムでこれから紹介されるだろう.人種・女性・移民・同性愛者を差別し,銃規制に反対し,海外侵略戦争を支持し,そして格差社会を肯定する反福祉思想,さらには福音派キリスト教の反科学主義などなど,今後,トランプのアメリカがブッシュ時代の暗黒に回帰するのか否かを注目したい.

|

« 日本でも進化論を教えなかった時期があった | トップページ | 内紛定食 »

新・雑事雑感」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 米国のダークサイド:

« 日本でも進化論を教えなかった時期があった | トップページ | 内紛定食 »