鎌倉のパエリア (七)
さてフランス料理店で,店側が客にスペイン料理であるパエリアを勧めるのは多分滅多にないことで,なかなか楽しい趣向ではあるが,前稿に書いた問題はどうしよう.つまりパエリアが出来上がるまでの待ち時間のことだ.
ところが店のほうもそこは心得ていて,定番メニューの冊子の他に,紙一枚に書かれた「サイドメニュー」が用意されているのであった.
そのラインアップを店の公式サイトから引用して紹介しよう.
《玉ネギの丸ごとロースト 500円
オリーブの盛合せ 800円
本日の野菜のマリネ 700円
鮮魚のエスカベッシュ 550円
自家製スモークサーモン 800円
鎌倉野菜のバーニャカウダ 1050円
スペイン産ハモンセラーノと
イベリコ豚“ベジョータ”のチョリソー 1100円
豚肉のリエット 550円
チーズの三点盛合せ 1200円
本日のオードブル 1200円》
言わずもがなだが,チョリソーはイベリア半島の豚肉の腸詰ソーセージである.
エスカベッシュもスペインやポルトガルでは一般的な料理だ.
バーニャカウダは歴としたイタリア料理で,イタリア料理店では定番の料理である.
とまあ,こうしてみると,メイン・メニューもサイド・メニューも,Brasserie 雪乃下の料理は欧州多国籍軍の陣容であることがわかった.
ちなみに私がバーニャカウダを初めて食べたのは古い話ではない.八年ほど前,うちの犬がまだほんの子犬だったときに,富士五湖へ犬連れで遊びに行ったのだが,その夜の泊りは河口湖に近い森の中にある犬同伴で泊まれるペンションで,夕食に出されたバーニャカウダを食べたのが最初であった.
そのペンションは料理がなかなかおいしくて,愛犬家の間では評判のよいペンションだった.季節は晩秋だったから,固形燃料 (日本旅館の食事で一人前の鍋を煮るときにつかうアレだ) を入れたポット (下の画像) で熱くしたソースに,生野菜をディップして食べるバーニャカウダはおいしくて,気がつくと驚くほどたくさんの野菜を食べてしまった.生野菜なのに鍋料理という面白い料理だと思う.
バーニャ・カウダ専用のポット。下の空洞部に
ろうそくや固形燃料をセットし、上部にソースを
注いで熱する。
(画像とキャプションは Wikipedia【バーニャ・カウダ】から引用;画像はパブリック・ドメイン)
もともと Brasserie 雪乃下で昼飯を食おうと決めたのは,鎌倉野菜の直売所の前をバスで通りかかって,それで鎌倉野菜を食べようと思ったからであるから,サイドメニューはもうこのバーニャカウダ一択だ.
笑顔がとても感じの良い接客係の女性従業員に私は「えーとこの雪乃下パエリアってのと,それとバーニャカウダを」と告げた.
(続く)
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