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2016年10月27日 (木)

現実と虚構 (六)

 前稿《現実と虚構 (五) 》の末尾に私は次のように書いた.

しかしどう設定を変えても,あの短い手のゴジラが,太平洋を泳ぎ渡ってくるのは無理である.それが可能ならばハムスターが自由形競泳に出場するだろう.
 そこで「シン・ゴジラ」では,極めて真っ当な設定をゴジラに与えて,第一作の論理的欠陥を乗り越えた.
 それは「個体発生は系統発生を繰り返す」であった.

 「個体発生は系統発生を繰り返す」
 このフレーズはよく知られていて,高校で生物の授業を受けた人はきっと覚えているに違いない.学問上の用語としては「ヘッケルの反復説」という.
 これはダーウィン進化論の影響を受けたエルンスト・ヘッケルによって1866年に提唱された仮説である.
 どんな仮説なのか,Wikipedia【反復説】から概要を引用しよう.

概要
反復説は1824-26年にエチエンヌ・セールが提唱したのが最初である。科学史上、エルンスト・ヘッケルの反復説と区別するために『メッケル・セールの法則』と呼ばれることもある。反復説とはもともと進化的な視点を伴ったものではなかったが、ダーウィン進化論の影響を受けたヘッケルが、1866年に『ヘッケルの反復説』として提唱したものが広く知られるようになった。
ヘッケルの反復説は、生物発生原則とも言われる。往々にして、簡単に「個体発生は系統発生を繰り返す」という風に言われる。つまり、ある動物の発生の過程は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われる、というのがこの説の主張である。ここで個体発生とは、個々の動物の発生過程のことであり、系統発生とは、その動物の進化の過程を意味する表現である。ともにヘッケルが提唱した言葉。
具体的には、彼が1866年にその著書『一般形態学』に記した以下のような文が元である。
「個体発生 (ontogenesis)、すなわち各個体がそれぞれの生存の期間を通じて経過する一連の形態変化としての個体の発生は、系統発生 (phylogenesis)、すなわちそれが属する系統の発生により直接規定されている。個体発生は系統発生の短縮された、かつ急速な反復であり、この反復は遺伝および適応の生理的機能により条件付けられている。生物個体は、個体発生の急速かつ短縮された経過の間に、先祖が古生物的発生の緩やかな長い経過の間に遺伝および適応の法則に従って経過した重要な形態変化を繰り返す」

ヘッケルの反復説の根拠とされた観察事例
よく実例に挙げられるのが、哺乳類の発生である。特に、その初期に形成される鰓裂は哺乳類では使用されることなくすぐにふさがってしまうから、哺乳類が魚類を経て進化した証拠であり、その時期の胚は魚類の段階の姿である、と主張される。また、鰓裂の形成→四肢の形成→鰓列がふさがる、という順番は、無顎類の鰓形成→魚類の対鰭獲得→両生類の鰓消失の順番と対応しているとされる。

 この説は,哺乳類の発生過程を観察した結果に基づいてヘッケルが提唱して以来,ほとんど進展がなく,むしろヘッケルが示したデータには信用性がないとの批判もあり,「個体発生は系統発生を繰り返す」の文言だけが有名なのが現状だと思われる.
 この「個体発生は系統発生を繰り返す」の学問的な重要性はともかくとして,これが一般によく知られているフレーズだということを,「シン・ゴジラ」は活用したのである.
(続く)

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