藤沢 はま吉
ちょっと前,このブログでアニメ映画「君の名は。」について《この八月つまり今週公開のアニメ『君の名は。』がちょっと気になっている.はたして大人の鑑賞に耐える作品なのかどうか》と書いた.(《夏休みアニメ 》)
その後,この映画が大ヒットしていることは諸兄御案内の通り.
それで,隣町のシネコンでいつまで上映しているのかはわからないが,やはり観ておいたほうがいいだろうと思って,今日行ってきた.
ジブリ作品などはいかにも昔からのアニメ絵であるわけだが,この「君の名は。」は映像美の点で群を抜いているとの評価を,ネットでも紙媒体でも得ているように思う.
たしかに,映像の遠近感というか空気感というか,とても美しいスクリーンである.
また主人公の男女はありがちなアニメ調の絵柄なのだが,同じ画面に驚くほどリアルな描画が同居していたりする.
そして,そういう作画演出にも感心したが,同時にラブストーリーとして充分に大人の鑑賞に耐える作品だと私には思われた.「シン・ゴジラ」と並んで今夏の収穫であるという評言を書いた批評家がいるが,同感だ.アニメ映画史上に残る作品だと思う.
で,劇場を出ての帰路,昼飯をどこで食うか思案した.
ここは一つ気張って鰻にしようと決めたのは,藤沢駅南口にある「はま吉」に私はまだ入ったことがないからである.
この店は超人気店で,平日の昼間でも並ばないといけないのだが,私は飯を食うために行列をするというのが好きでない.それが今までこの店で鰻を食ったことのない理由である.
しかし最近のことだが,糖尿病予備軍の気配がすると医者に忠告された.ひょっとすると,このまま鰻に別れを告げることになるやも知れず,それなら今生の思い出に人気店の鰻を食っておくかと思ったのである.
しかし結論.
この店より味もコスパも良い鰻屋はそこら中にある.列を作ってまで食うことはない.
それはそれでいいとして,今日の昼飯は大変に気分が悪かった.
この「はま吉」は鰻屋だけあって店の中が鰻の寝床になっている.
入口は狭く,そこから奥に向かって左側にカウンター席がずっとある.そのカウンター席の背中側 (つまり右側) に二人席の小テーブルがいくつかあるというのが,この店の作りである.
さて店の外で待っている客が次第に減り,私と,私よりも御年配の上品そうな老婦人が,店員に呼ばれて同時に店に入った.中の腰掛で二人はまた少し待たされて,それから私とその老婦人は並んでカウンターに着席した.
私の右はその老婦人,左側は七十の坂は越していると思しき老人夫婦 (そんな風な会話をしていた) で,爺様が私の左隣であった.
爺様夫婦に鰻重が運ばれてきたあと,他の客にも次々に盆に載せられた鰻重が届いた.
そして私は驚いたのだが,私と老婦人よりも前に店に入っていた客たちは,おそらく半分がいわゆるクチャラーだったのである.私の外食歴は長いが,これほど異常なクチャラー率は経験がない.
ピチャピチャという咀嚼音が店内のあちこちから聞こえ,中でも私の左にいるじじいが吸い物をずぶぶぶぶぶぶと啜る音が異様に高く響く.こいつは茶もずぶぶぶぶぶと音を立てる.そして重箱に口をつけてずるずると啜るように口に鰻飯を流し込んだ.
食い終わるとこのじじいは,備えてある爪楊枝で歯をせせった.シーハーシーハー.お前はダース・ベイダーか.
あまりのことに「そんな汚らしい音を立ててものを食うんじゃねえっこのじじいっ」と憤然席を立とうと思ったのだが,せっかくの鰻重なので最後までいただきました.こらこら.
ちなみに,「君の名は。」開演前の近日上映作予告編で,スター・ウォーズ番外編「ローグ・ワン」をやった.ダース・ベイダー再び,だ.言語の壁があるから,欧米人には人気があっても,スター・ウォーズのスピン・オフ作品群は,私たち日本人にはなじみがない.どんなもんだか,これは観なくてはなるまいて.残り僅かな人生,悠長に待ってはおられんのだから,本編と外伝で,年に二作品公開だと嬉しい.ディズニー,頑張れ.
ところで,私の右側に腰かけていた老婦人であるが,この人は音を立てずに静かに鰻重を召し上がった.
鵠沼の御屋敷にでも御住まいの奥様なのかしらんと思いながら,食事を終えて私は席を立った.そのときに,鵠沼婦人と思しき老婦人の重箱が目に入った.
そして私は驚いた.その御婦人は,鰻重の鰻だけ食べて,タレのしみた飯を全部食い残していたのである.
なんだそれは.なんのための鰻重であるのか.
鰻だけ食うなら蒲焼を注文すればいいではないか.「そんな汚らしい食いかたをするんじゃねえっ飯粒無駄にすると目がつぶれるぞ戦後の食糧難を思い出せ聞け万国の労働者轟き渡るメーデーの示威者に起る足取りと未来を告ぐる鬨の声このばばあっはあはあ」と私は憤然席を立とうとしたのだが,もう立っていたのであった.こらこら.
というわけで,この「はま吉」は客層が悪過ぎである.なんでこんな店がはやるのか,わけがわかりませぬ.もう腹が立つ.「君の名は。」はよかったんだけどねー.よい作品を観た感動が台無し.
(鰻重は三千百五十円.三百五十円はグラスビール)
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