トイレは戦場か
かなりよく知られていることではないかと思われるのだが,それにしてはネット上に記載が少なくて,いつも不思議だなあと思っていることがある.
その不思議なこととは,東京駅の東北・上越新幹線の改札口を入ると短いコンコースにトイレがあり,そのトイレの壁にプレートが貼られていて,そこに書かれている文言のことである.
その文言は,トイレ使用にあたっての注意事項なのだが,「タバコを吸ってはいけない」などの他に「火器の使用」を禁ずるということが書いてある.
「火器」の語義として,ネット国語辞典には例えば
《1 火を入れる器具。火入れ。
2 大砲・銃など、火薬を使って弾丸を発射する兵器の総称。銃砲。》
(デジタル大辞泉)
などと書かれているが,Wikipedia【火器】で解説されているのは上の 2 の意味だけである.
現代の私たちは「火器」を「火を入れる器具」の意味で用いることはまずない.「火を入れる器具」とは炉や火鉢のことと思われるが,一般家庭の日常生活から炉や火鉢は姿を消して久しいからであるし,「火器」と総称を用いずに単に炉とか火鉢と言えば済む話だからである.
駅のトイレに火鉢を持ち込む者がいるとも思えないが.
それでは「火器」の用例としてはどうか.
上に書いた東北・上越新幹線のトイレに書いてある「火器」は誤用ではない.もし万が一,トイレに火鉢あるいはアサルトライフルを持ち込もうとする人間を発見した駅員は,これを阻止せねばならないからである.
だがしかし,このような場合にはもっとずっと適切な言葉がある.「火気」だ.「火気厳禁」ならばトイレの注意書きとして違和感がない.
残念ながらトイレの注意書きは言葉の用例にも出典にもならないと思うのだが,もし用例に採ることができるとしても,稀有な用例といえるだろう.
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