正確さを欠く雑学テレビ番組
日本テレビ「世界一受けたい授業」(7/30) を録画しておいて観た.
この放送で取り上げられた話題の一つ《名作「ローマの休日」の大スキャンダル! ハリウッドに最も嫌われた男の正体とは!?》は,映画『ローマの休日』の脚本を書いた人物についてであった.
まず Wikipedia【ローマの休日】から,Wikipedia の記述詳細を示すために,少し長いが,以下に引用する.
《概要
ウィリアム・ワイラーが製作・監督。ローマを表敬訪問した某国の王女が滞在先から飛び出し、一人でローマ市内に出て知り合った新聞記者との切ない24時間の恋を描いている。トレビの泉や真実の口など、永遠の都ローマの名だたる観光スポットを登場させていることでも有名である。
王女をオードリー・ヘプバーン、新聞記者をグレゴリー・ペックが演じている。この時に新人だったオードリー・ヘプバーンは1953年度のアカデミー賞において、アカデミー最優秀主演女優賞を受賞している。
この他に衣裳のイーディス・ヘッドが最優秀衣裳デザイン賞をまた脚本のイアン・マクレラン・ハンターが最優秀原案賞をそれぞれ受賞した。
ただしイアン・マクレラン・ハンターの受賞については、この作品はもともとダルトン・トランボが執筆して当時の赤狩りでハリウッドを追われたため、名義を借用したものであった。アカデミー賞選考委員会は1993年にダルトン・トランボへ改めて1953年度最優秀原案賞を贈呈している。
監督ウィリアム・ワイラーと脚本ダルトン・トランボが男女の出会いと別れという月並みなテーマを、フレームに映る全ての事実の積み上げと互いの細かい感情のやり取りから普遍的なお伽話にまで昇華させた映画となった。》
《製作
製作決定
本作の脚本家であるダルトン・トランボが、この可愛い王女の独創的な物語を書き上げたのは、1940年代の半ば頃で、この脚本を当時の映画製作会社リバティ社が映画化権を取得したが、取得に当って映画監督のフランク・キャプラが大きな役割を果たしている。1948年にリバティ社がパラマウント社に買収された後に、フランク・キャプラを監督にして製作に入ることになった。しかしこの時にキャプラがエリザベス・テイラーとケーリー・グラントでの配役を提示したが、製作費で会社側と折り合えず、結局キャプラは降りてしまった。
その後、この企画はしばらく宙に浮いたままだったが、1951年初めにウィリアム・ワイラーが、この脚本を知りローマでの撮影を条件に強い関心を示して、ウィリアム・ワイラー監督でパラマウント社は製作に入ることとなった。
製作時にアメリカ本国ではマッカーシー上院議員らによる「赤狩り」と呼ばれる非米活動調査委員会での共産主義者排斥運動が行われ、映画産業でもハリウッド・テンと呼ばれた人物たちがパージされ、本作の脚本家であるダルトン・トランボもその一人であったため友人の脚本家イアン・マクレラン・ハンターが本作の脚本にその名前をクレジットした。ウィリアム・ワイラーがローマへ携えた草稿はトランボの脚本をハンターが手直ししたものであった。ワイラーはイギリスの作家ジョン・ディントンを雇い、その草稿に磨きをかけて製作中に新たなシーンを書き加えさせた。そのため、1953年に映画が公開された時に画面に出された脚本家のクレジットはハンターとディントンが共有した。》
この『ローマの休日』の脚本を巡るダルトン・トランボ,イアン・マクレラン・ハンター,ジョン・ディントンの関係は,もう二十年以上も前 (1993年) から有名な,映画ファンなら知らぬ者のないエピソードである.
ではなぜ先日放送された「世界一受けたい授業」が,《名作「ローマの休日」の大スキャンダル! ハリウッドに最も嫌われた男の正体とは!?》などと最近わかった事件のように取り上げたのか.
これは,三年前に出版された書籍『ローマの休日を仕掛けた男~不屈の映画人ダルトン・トランボ~』(ピーター・ハンソン著,中央公論新社,2013年10月発行) が映画化され,日本ではこの七月に公開されたのが理由である.
つまり,「世界一受けたい授業」の惹句《名作「ローマの休日」の大スキャンダル! ハリウッドに最も嫌われた男の正体とは!?》は,なんのことはない,映画の宣伝なのである.
それに「世界一受けたい授業」では,『ローマの休日』の脚本が,ウィリアム・ワイラーとジョン・ディントンの果たした役割を無視して,ダルトン・トランボ一人の手になったかのように放送していたが,それは少し違うんじゃないか.ダルトン・トランボは原案者なのであるからして,先日の「世界一受けたい授業」は誤解を招く放送内容であると言わざるを得ないのである.そのあたりの事情を,上の引用中,フォントの色と下線でわかりやすくした.
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