« ラソチョソミート | トップページ | 暴力的にヘタな歌 »

2016年7月21日 (木)

差し水

 昨日放送のテレビ東京『ソレダメ! ~あなたの常識は非常識!?~』を観た.
 この番組は,この種の雑学情報番組の中では程度が低いのだが,レギュラー出演者 (オードリーの二人,小籔千豊) のコメントが面白いのでよく観ている.

 さて昨日の「新常識」(?) に「素麺の差し水」の話が出た.
 素麺を茹でるときに差し水はしないのが良いという内容である.
 それを聞いた司会の高橋真麻さんらが「えーっ 差し水しないのー?」と驚いていたが,素麺を茹でるときに差し水するなんて一体いつの時代の話なんだよと,逆に私は驚いてしまった.

 年寄りには,といっても多少の料理の心得がある者には,の場合であるが,素麺に差し水はしないのが常識である.「新常識」でも何でもない.
 高橋真麻さんは御結婚の予定がおありになるようだが,大丈夫か.

 調理に用いる加熱機器が,古くはかまどに鍋を置いて薪で炊いた時代,あるいはぐんと下って七輪に炭とか練炭を熾した時代,あるいは戦後の一時期に使われた石油コンロであった時代,昭和の後半まで使用されていたガスコンロ (ガス量の調節を,器具とガス管との接続部分に取り付けられているやや堅めのコックを左右に開閉して行う超レトロなものや,卓上ガスコンロのようにダイヤルを回転させて行うレトロなもの) の時代には,火加減の調節が瞬時に適切にできなかった.
 煮物をコトコト煮くなんてときは,これらの熱源でよろしいのであるが,素麺を茹でるのは短い時間であるから,とても間に合わない.
 それで重宝した大昔からの生活の知恵が差し水だった.
 具体的には,沸いた湯に素麺を投入し,一旦は沸騰が止むが,すぐに再沸騰する.ここで鍋の湯が吹きこぼれそうになったら,少量の水を,沸騰が止まない程度に加える.
 加える水の量は,鍋の大きさ (湯の量) と相談で,入れ過ぎてはいけない.
 慣れていれば,一度か,あるいは多くて二度の差し水で,素麺が茹で上がる.
 ここで大切なことは,鍋に多量の水を投入して,沸騰を完全に止めてしまってはいけないことである.
 差し水を別名「びっくり水」と呼ぶが,これは,沸騰が一瞬止まってすぐにまた沸くのを人がびっくり驚いた様子にたとえたものであり,言い得て妙である.
 なぜなら水を投入してから十秒も二十秒も再沸騰しないのは,「びっくり」ではなく「沈静」だからである.www

 ともあれ,現代の家庭用調理熱源として最も一般的なガステーブルは,火力の調節を,調節レバーを左右に動かして行う.(一例をあげる)
 これであると,大変微妙かつ安定した火加減が瞬時に可能である.このガス器具が普及して,素麺の差し水は意味を失ったのであった.
 このような普及型ガステーブルでの火力調節には,小手先の器用さとか特別なことは何もいらない.普通に生活するのに必要な頭があればよい.
 自分ちのガステーブルと鍋やフライパンで,麺類を茹でるとき,煮物を拵えるとき,卵を焼くとき,それぞれどのようにレバーを動かして火力調節するかは実に簡単至極であり,そして誰でもできることだ.差し水なんかせずに素麺は茹でられるのである.(ただし野外での調理は除く.キャンプ場で素麺を食いたいやつがいればの話だが)

 番組では,三輪そうめん山本 (奈良県桜井市箸中) の山本太治社長が画面に登場して,差し水せずに茹でたほうがおいしく茹でられると断言して,こういう愚かな人の書いた《【素麺の茹で方】差し水のあるなしで味が変わるのかを検証してみた》に引導を渡してくれたのはよかった.

 で,ここまでが長い前フリ.
 三輪そうめん山本の社長の顔を見て,私は自分が昔書いた記事を思い出した.
 以下に再掲載する.

--------------------------------------------------------
2002年7月30日
三輪素麺

  この7月にいわゆるJAS法が改正された.骨子を抜粋すると,次のようなことである.  

農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律
の一部を改正する法律について
                      平成14年6月 農林水産省
Ⅰ 趣旨
 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(以下
 「JAS法」という)については、最近の食品の偽装表示の
 多発を踏まえ、消費者への情報提供及び実効性確保の観点か
 ら、公表の弾力化及び罰則の強化の措置を講じることとする。
Ⅱ 概要
1 公表の弾力化
 消費者への迅速な情報提供を図る観点から、必要なときに公
 表することを可能とするようにする。(現行の「指示に従わ
 ない」場合の公表の規定を削除)
 ※現在のJAS法では、指示以前の時点では、相手方の同意
 がない限り公表できない。
2 罰則の強化
 指示を遵守すべき旨の命令に違反した場合の罰則を、次の
 とおり大幅に強化する。
  ①懲役なし→1年
  ②罰金個人50万円→100万円
     法人50万円→1億円

 この全文は農水省のサイトで閲覧できる.一連の食品表示の偽装事件によって失われた消費者の信頼を取り戻すべくとられた措置である.内閣府が今年の5~6月,全国の国民生活モニター2300人に実施し,29日に発表した意識調査(回答率97.8%)の結果によると,偽装事件の頻発で「食品に対する購買行動が変わった」と回答した消費者が76.8%に達している.

 『談話室』でも少し触れたが,読売新聞《Yomiuri Online 7/24 19:19》が『三輪そうめん』の偽装表示事件を伝えた.
 農水省は24日,デパートやスーパーなどで三輪素麺の販売を全国展開している奈良県桜井市の製麺業3社に対し,長崎県などで製造された素麺を『三輪そうめん』と表示する販売を20年以上にわたり常態化させてきたとして改善を指示し,同時に業者名を公表した.
 公表されたのは大手の「池利」「三輪そうめん山本」「森井食品」の3社であるが,この他にも表示を偽っていた業者があり,読売の続報によると全部で14社が昨年,奈良県三輪素麺工業協同組合(117業者)から自主脱退したり,除名処分を受けたりしたという.上の骨子にある「消費者への迅速な情報提供を図る観点から、必要なときに公表することを可能とするようにする」というのは,公表しない限り事態が改善されないと判断される相手の時には公表するということである.実際には,悪質な3社以外の業者名は公表されていないが,これは上記の改正JAS(日本農林規格)法の初適用であり,これまでとは違うぞという農水省の意気が感じられた事件である.

 ところが,である.驚天動地の事態が起きている.奈良県農政課は残る製麺業者の調査を始めたが,他の中小業者に同様の違反が見つかっても「改善が第1の目的。それが達成できれば、改正JAS法の適用や業者名の公表は必要ない。県には行政の裁量権がある」《Yomiuri Online 7/29 14:56 》として公表しないことを決めたのである.農水省品質課は奈良県に足並みをそろえるよう求めたが,県は拒否したという.県の農林部長である増井勲・奈良県副知事は「家内工業のような零細な業者もおり、改正JAS法をすぐに適用すると影響が大きい。適用前の啓発が大切ではないか」《Yomiuri Online 7/29 14:56》と説明した.
 高飛車に「適用前の啓発が大切ではないか」とは聞いてあきれる.啓発してこなかったからこそこうなったのではないのか.恥も外聞もなく奈良県が農水省に抵抗する理由は何か.偽装表示は他の業者も常態として行っていると告白したも同然である.これでデパート等の進物売場から三輪素麺は姿を消すことになるだろう.奈良県は業界保護のつもりだろうが,県内の伝統ある素麺製造業を結果的につぶすことになる.農水省もここで引いては困る.断固として他の業者についての調査結果を公表し,もし中小業者で偽装表示に手を染めていない社があるなら,県に楯突いて潔白宣言をするがよい.
 悪質業者を市場から退場させ,自社のシェアを拡大する千載一遇の大チャンスだ.会社の規模が小さくて生産量が少ないなら,希少という付加価値がつく.私が経営者ならそうする.
--------------------------------------------------------

 上の文で私は《これでデパート等の進物売場から三輪素麺は姿を消すことになるだろう》と書いたが,これは消費者の正義感を買い被っていたのであった.
 なんのことはない,三輪そうめん山本他の三輪素麺大手は,この産地偽装事件発覚後もずっと中元商品定番の地位を確保したままであったのだ.
 まあ,消費者なんてほんとは品質の良し悪しとか産地偽装なんかどうでもいいのである.贈答品として欲しいのは「三輪」というブランド産地名なのだ.中身が長崎島原産の素麺を「島原」と正直に産地表示されたら,困るのは消費者なのだ.
 しかしそうであっても,そうであるならばせめて私は,悪徳業者三輪そうめん山本の素麺は今後一切購入すまいと決めた.
 しかしそうはいっても,親しいかたから夏の季節に頂戴したものを正義感で捨ててしまうのは人として如何なものかと思い,来るものは拒まずおいしく頂いております.こらこら.

|

« ラソチョソミート | トップページ | 暴力的にヘタな歌 »

新・雑事雑感」カテゴリの記事

食品の話題」カテゴリの記事

私が昔書いたこと」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 差し水:

« ラソチョソミート | トップページ | 暴力的にヘタな歌 »