蒲原夜之雪
テレビ番組の話が続く.
前に何度かこのブログに書いたが,私は現役会社員時代は,ほとんどテレビ番組を観なかった.仕事が忙しかったし,テレビなんてくだらないと思っていた.
ところが仕事から引退してみたら,テレビを観る時間が毎日たっぷりある.
一日に二時間から酷い時は三時間も録画して,その翌日にCMを飛ばして観ているが,そんな私のお気に入り番組はテレビ東京のものが多い.
番組タイトルを挙げると「YOUは何しに日本へ?」「世界!ニッポン行きたい人応援団」「和風総本家」の三つだ.
三番組とも娯楽番組としては同じジャンルといえるかも知れないが,他局のくだらぬドラマなんかよりも,観ていて余程楽しい.
中でも,私がこの番組を観るようになってから以降の「和風総本家」はハードディスクに保存してあり,一度観たあとにまた観ることもある.良心的な番組だと思う.海外の番組のように「和風総本家シーズン○○」などと題してBDボックスを発売してくれないかと思うくらいだ.
それはさておき,昨日放送された「YOUは何しに日本へ?」のこと.
以前の放送から,京都から東京まで広重の浮世絵画集を手にして東海道五十三次を歩いて旅している外国人女性を密着取材 (撮影スタッフがいくつかの区間を同行) してきたが,昨日の放送でこのシリーズが終った.
今回のスタートは駿河の由比蒲原付近からであったが,周知のように広重の「東海道五拾三次」の中でも有名な「蒲原夜之雪」に描かれた蒲原宿は雪の降る情景である.
旅人とスタッフが「蒲原夜之雪」に描かれた場所はどこであろうかと探して,通りがかりのおばさんに訊ねたら,この辺りは雪なんて降らないから別の所じゃないですかとか言うし,撮影しているところに近くに住む老婦人がやってきて,「蒲原夜之雪」は越後の蒲原を描いたものだなどという.(広重の絵にはちゃんと東海道と書いてあるにもかかわらず!)
それで旅人とテレビ局スタッフは「蒲原夜之雪」は実際にはあり得ない風景を広重が遊び心で描いたものだということをすっかり信じてしまった.
まことにおせっかいな嘘つき女共である.
駿河湾の奥に位置する静岡県中部は今でこそ暖かくて降雪がないが,それでも気象条件によっては希に積雪することがあるのである.
現在の静岡市清水区,昔の蒲原宿の辺りに住む知人の経験談によれば,戦後の昭和に二度積雪があったそうだ.そのうちの一度は私も記憶している.
ましてや遠い昔の江戸時代である.蒲原に雪が降っても何もおかしくない.
実際これもテレビ東京の大和田獏が出演した旅番組 (いつの放送だったかよく覚えていないが,たぶん今年だと思う) で,蒲原の旧家の土蔵を調べたら,江戸期に蒲原宿で大雪が降ったと言う記録を記した古文書が出てきて番組で紹介していた.蒲原に雪が降るのはあり得ないことではないのである.
駿河は昔から雪の少ない地方ではあるが,広重の「蒲原夜之雪」は滅多にない雪降る蒲原の情景を画家の想像力で描いたものだと理解するのが,「蒲原夜之雪」は越後の蒲原だなんて突拍子もないことを言うよりもよっぽどまともである.
繰り返すが,迷惑な嘘つき女どもがいたものである.嘘を吐く小癪なその唇を右斜め上四十五度方向につねりあげてやりたい.
せっかく海外から東海道五十三次を歩き通す旅をしにきてくれた外国人女性なのに,広重の浮世絵が事実と異なるものだとがっかりさせてしまってかわいそうだった.
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