ソウルフード (六)
Wikipedia【ソウルフード】に次のようにある.
《1.アフリカ系アメリカ人の伝統料理の総称。本項で詳述する。
2.その地域に特有の料理。その地域で親しまれている郷土料理。》
ソウルフードの語義は,もちろん正しくは上に《アフリカ系アメリカ人の伝統料理の総称》とある通りだが,これが転じて日本語化し,郷土料理一般の意に使われるようになったものである.
前々回の《ソウルフード (四) 》に下のように書いた.
《いわゆるB級グルメブームは,日経の特別編集委員であった野瀬泰申氏らが仕掛けたもので,何の観光資源もないと思われていた地方の町でも,他のところにはない「食べ物」があれば,それで町おこしができることを示したものであった.
「食べ物」を観光資源にするということは,例えばただの焼きそばに「○○焼きそば」(○○は地名) と名前を付けるところから始まる.
その成功例 (参照;Wikipedia【B-1グランプリ】) は数多いが,ブームに便乗しただけの偽物もまた多い.》
つまり私たちが「郷土料理」と呼ぶべきものは,「食べ物の観光資源化」とはかなりの距離があるものだ.有名な「富士宮やきそば」でも,たかだか十数年の歴史しかないB級グルメであって,郷土料理の範疇に入らないものである.
その観点からすれば,Wikipedia【農山漁村の郷土料理百選】に記載されている郷土料理は,一部に首を傾げたくなるものが入っているが,概ね皆に納得されるものではなかろうか.
私の郷里の群馬県のように郷土料理と呼ぶべきものがない地方 (先に述べたように,群馬には煮込みうどんの「おっきりこみ」があるが,これはいずれ観光料理として元々の姿を失っていくだろうし,同じく煮込みうどんとして食べられてきた桐生の「ひもかわ」は既に別物に変わり果ててしまった) もあれば,その反対に,郷土料理が多いために百選から漏れてしまったもののある地方も多い.
その一つが新潟である.越後は私の両親の生まれ育った土地だ.
その越後の人々は,笹の葉を食生活に取り入れることがうまかった.
代表例が郷土料理百選に入っている「笹寿司」である.これは実に素朴な食べ物であって,昔ながらの形のものが今でも北信越地方の家庭で作られている.拵え方は簡単で,特に大仰な準備はいらない.飯を炊いて酢飯を作れば,あとは山菜を煮たものとか佃煮,紅しょうがなどの常備菜を,酢飯と一緒に笹の葉の上に盛ればできあがりだ.
(ただし北陸にも「笹寿司」という料理があるが,こちらは押し寿司で,越後信濃の家庭料理よりも御馳走感のあるもので,通販でも販売されている)
もう一つ,有名な越後の「笹飴」は,笹寿司よりも由緒起源がはっきりしていて,寛永二年 (1625年) に越後高田 (現在の新潟県上越市) の人,初代高橋孫左衛門が製法を考案した「粟飴」を笹の葉にはさんだ飴菓子である.
越後の笹飴が広く知られたのは,漱石の『坊ちゃん』に,清の好物として描かれたことによる.
《それを思うと清なんてのは見上げたものだ。教育もない身分もない婆さんだが、人間としてはすこぶる尊い。今まではあんなに世話になってべつだんありがたいとも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、はじめてあの親切がわかる。越後の笹飴が食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、食わせるだけの価値はじゅうぶんある。》
などと数ヶ所にあり,また実際に漱石は新潟県人である知人の医師から毎年笹飴を送ってもらっていたことが知られている.
(続く)
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