ソウルフード (九)
《豆助、今日は今が旬のあれを使った小鉢よ 》 という決め台詞 (テレビ東京系『和風総本家』) があって,「旬」はその料理や食材に感じられる季節感の謂である.
「旬」は一般には Wikipediaの解説の通り,《季節を先取りするはしりと呼ばれるもの》《収穫量がピークに当たる時期》《素材がもっとも美味しい時期》としてよく,それはつまりその食材が内包する季節感である.
しかし一年中作り,また味わうことのできる食べ物なのに季節感がある,ということは確かにあって,その季節感は魚介や野菜などが元々持っているものではなく,私たちの生活文化の中で醸成されてきたものだ.
前回の記事に書いた粽の季節感は,そういうものである.
少し前に,私は新潟市にある森林 (もりばやし) 農園という業者から粽と笹団子を取り寄せた.その梱包には手書きした紙のコピーが入れてあり,その一部を下に引用する.
《私共の所では、田植が終る五月下旬より六月にかけてどこの農家でも、家族全員で笹だんご・ちまきづくりが行なわれます。子供達は、その笹団子の束を肩にかけて遊びに行きます。田んぼのあぜ道で、クローバーの緑のじゅうたんに寝ころび、笹だんごをほうばると、ほのかな若草の香りと笹だんごの味がなんとも言えない幸福感を感じさせました。》
上に書かれているように越後の笹団子は,粽と同じ季節感の食べ物である.
今の農家の子供たちも《笹団子の束を肩にかけて遊びに》行くかどうかは知らないけれど,田んぼのあぜ道で緑のじゅうたんに寝ころんだ農園主の思い出は,私にも思い出されるものだ.
先月,私はこの農園主の拵えた粽と笹団子を通販で購入し,届いたその日にいくつか食い,あとは冷凍しておいて,時折小腹の空いた時に食べ,画像のものが最後である.
食品製造の技術は昔よりもずっと巧みになっていて,例えば笹団子には冷凍耐性を向上させる酵素製剤を加えれば長期の冷凍保存に耐えるようにすることができる.
あるいは笹に離型油を塗れば,餅や団子が笹とくっついて離れないということもなくなる.
ただ,それらは確かに品質の向上であるだろうし,実際にそのように製造している業者もあるけれど,しかしそのことで失われるものもある.
笹の葉と中身の離型性をよくすれば,それは私たちがかつて親しんだ粽や笹団子ではなくなる.私たちの思い出から,遠ざかる.
農園主が,笹にべたべたとくっつく粽を今も昔と同じように作り続けていることが,私はうれしい.
私は群馬の生まれ育ちではあるけれど,隣国越後の粽と笹団子が私のソウルフードなのである.
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