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2016年6月15日 (水)

消費者をナメている彼ら

 昨夜放送されたテレビ東京「ガイアの夜明け」(6/14放送 第720回) は,《オンリーワン商品で"本場"に挑む!》と題して,長野県にあるビール製造会社「ヤッホー・ブルーイング」を取り上げた.

 同社は,Wikipedia【ヤッホー・ブルーイング】には次のように書かれている.

会社概要
1996年5月に設立された、エールビール専門のクラフトビール製造メーカー (ブルワリー) 。リアルエールとバーレーワイン (長期熟成エールビール) をはじめとしたバラエティ豊かなクラフトビールを製造・販売している。 地ビールメーカーとしては業界最大手 (ビール業界全体では大手5社に次ぐ第6位) 。


 これだけではよくわからないかも知れないが,スーパーやコンビニでビールを買う人はたぶん目にしているはずの「水曜日のネコ」のメーカーである.

 

 さて飲食料品の嗜好については,人により様々であるとしか言えない.
 例えば紅茶.私はどちらかというと保守的嗜好の持ち主であり,強い果実香や花の香りを付与したフレーバード・ティーを好まない.しかしアップル・ティーを好きだという人がいるのは事実であり,それはまがい物だと否定する気は,私には全くない.

 

 ビールにも同じことがいえる.
 よく知られているように,ドイツには「ビール純粋令」という法律がある.
 Wikipedia【ビール純粋令】から抜粋引用すると以下の通り.

16世紀当時のビールは、麦芽、水、ホップの主要な原料の他、香草、香辛料、果実が用いられていた。時には毒草さえ混じる粗悪なものや、そもそもビールとすら呼べないものさえ横行していた。

 

 そのため、にバイエルン公ヴィルヘルム四世はビールの品質向上を目的として,「ビールは麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする」旨の法律を制定した (1516年4月23日).現在でも有効な食品関連法は,これが世界最古とされている.

 もう一度Wikipedia【ビール純粋令】から引用する.

現在でもドイツ国内の醸造所の多くは、ビール純粋令の内容によりドイツビールの品質が支えられ、市場競争力を得ているものと考えており、これを指針としてビール作りを続けている。例えば、バイエルンの醸造業者は、1993年の法制化にて上面発酵ビールでは使用を認められている砂糖も使うことなく、従来のビール純粋令に従って醸造している。理由は、ビール純粋令に従って醸造したビールは消費者から支持を受け、ブランドを守ることができるからである。

 

 私たち日本人のビール観は,副原料にデンプン類の使用は許容するが,概ねドイツのビール観の影響下にある.
 ところがヤッホー・ブルーイング社は,このドイツ流のビール観から全く自由だ.色々な副原料を用いて着香するのを得意としているのである.
(上に紅茶の例で述べたように,ビールに副原料でフレーバーをつけることには何の問題もない.消費者の嗜好の範囲内のことである)

 しかし同社のビールは,斬新な缶のデザインとおしゃれなネーミング (例えば「水曜日のネコ」など) が,ビールのライトユーザーである女性たちの支持を集めてはいるが,キリンビールやアサヒビールの製品が市場を圧倒的に制している我が国では,スキマ商品以外の何物でもない.
 そこでヤッホー・ブルーイング社は,同社製品と同じ類のビールが消費者に人気がある米国での販売に乗り出した.そのために同社が新たに開発したのは,柚子で着香したビールと,鰹節で旨味を付与したビールの二製品である.
 番組によると米国での試験販売は上々の滑り出しであったという.ヤッホー・ブルーイング社の,まだ四十八歳という若い経営者は,番組のインタビューに対して次のように語った.

 

「我々みたいなビールが,埋もれないで,知恵を出して,アイデアを出して,目立って,ウケる.そこを本場のアメリカでできたら,たぶんどこでも,できると思う.そういう意味でいい挑戦だった」

 

 以上が,「ガイアの夜明け 第720回」/《オンリーワン商品で"本場"に挑む!》の概要である.
 おそらく番組制作者は,日本の小さな会社の若い経営者と若い社員たちが「知恵を武器に米国市場に挑戦する」といった勇気の物語を意図していたのであろう.
 しかし,放送された映像は,その意図を全く裏切るものであった.
 この映像を見た同業のビール会社の社員は,ヤッホー・ブルーイング社醸造所 (長野県佐久市) の製造現場の,あまりの不衛生,あまりのデタラメぶりに愕然としたのではないだろうか.

 

 まず,同社醸造所の社員たちは,ジーンズにTシャツなどの通勤服のまま,着替えすることなく製造現場に入っている.
 製造担当者たちは,ヘアネットから後ろ髪を露出したまま作業している.特に画面に写ったロングヘアの女性は髪を後ろに垂らしたまま作業していた.信じがたい.
 ヒゲを伸ばした作業者がマスクをしていない.
 靴は汚れたスニーカーである.
 醸造タンクに手づかみで鰹節を投入している.
 衛生区と非衛生区が遮断されていない.
 ……,などなど.

 

 私は現役会社員時代に,たくさんの食品会社を見学してきたが,このヤッホー・ブルーイング社ほど不まじめで,衛生観念皆無の食品工場はない.
 この会社の連中は,自分たちの作っている製品が,消費者の口に入る飲料だとは思っていないのだろう.
 製造ラインには細かい網のフィルターが設置されているはずだが,そこに引っかかって除去される異物を見てみたいものだ.同業他社の製造担当者が見たら卒倒するのではなかろうか.
 要するに彼らは,ビールを飲料ではなく,ビジネスの道具だとしか考えていないのだ.
 ヤッホー・ブルーイング社の社長も社員も,飲食料品の製造をナメている.消費者をナメている.
 彼らにとってビールの品質なんかは実はどうでもいいことなのだ.

 録画しておいたこの番組を見終わった後で,もう一度社長の発言「目立って,ウケる」を聞き直してみた.すると,彼らがやっているのは「モノづくり」ではなく,「ウケ狙い」だということがよくわかった.「水曜日のネコ」というネーミングは,おしゃれというより,この経営者の軽薄さの象徴なのである.

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