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2016年6月 5日 (日)

単独峰

 今年の,少し前のことだ.
 たしかNHKの「団塊スタイル」であったか,東日本大震災特別番組だったかを観ようとテレビをオンにしたときだったと思う.
 達者な絵本風イラストの動画にかぶせて,女声の朗読が流れた.
 観ようとした番組の少し前の一,二分の短い朗読なのであるが,その文章は,他の誰でもない人の文体だからすぐにわかった.佐野洋子である.
 あとで調べたら,その番組は二年前に制作された「ヨーコさんの“言葉”」の再放送であった.

 『100万回生きたねこ』(講談社) の出版が昭和五十二年(1977年) だから,当時二十七歳の私が絵本を読むはずもなく,私が佐野洋子という人の名を知ったのは『私はそうは思わない』(筑摩書房, 1987年) が最初だった.
 その当時,佐野洋子は五十歳,私はまだ四十前だったから,随分と風格のある文章を書くかなり年上の女性のように思ったのだが,今になってよく考えてみると,彼女は私よりほんの一世代上だけなのである.
 佐野洋子は昭和十三年生まれで平成二十二年没.享年七十二.
 あと何年かで,私も七十の歳を越す.まことに時間の過ぎるのは早い.

 女性作家でエッセイをたくさん書く人のうち,内容が下品で文章がヘタの最右翼を林真理子とすれば,対極に群ようこや平松洋子がいることに異論のある人は少ないだろう.
 群よう子や平松洋子は随筆の名手であるが,佐野洋子は全くの別格だ.ふさわしい呼びかたを探せば「単独峰」だろうか.

 昨日から,佐野洋子の『がんばりません』を引っ張り出して寝床で読んでいる.
 それにしても,エッセイを能くする女性は,なぜ皆「ようこ」なのだろう.

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