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2016年4月14日 (木)

永谷園が嫌いだ

 Wikipedia【永谷園】に,

永谷園のCMは、食事のシーンをダイナミックなカメラワークと音で表現したものが多い。特に1998年頃より放送された熱々のお茶漬けをひたすら掻き込むCMは話題となり、以後他商品でも似た様なCMがつくられた。

とある.
 もう二十年近くになるのか,あの永谷園のCMは.
 上に引用した部分を書いた人間は,下品な音を立てて物を食うのが好きだと見えて《話題となり》などと書いているが,当時の視聴者の反応は「物議を醸した」あるいは「非難を浴びた」と言うのが近い.

 永井荷風『濹東綺譚』に次のような箇所がある.(岩波文庫版『濹東綺譚』から引用)

わたくしはお雪さんが飯櫃を抱きかかえるようにして飯をよそい、さらさら音を立てて茶漬を搔き込む姿を、あまり明くない電燈の光と、絶えざる溝蚊の声の中にじっと眺めやる時、青春のころ狎れ暱しんだ女たちの姿やその住居のさまをありありと目の前に思浮べる。

 上の引用にあるように,茶漬けを食べるときの音を荷風は「さらさら」と書いている.
 戦後の昭和歌謡曲に「お茶漬けさーらさら たーくあんぽーりぽり」と歌うコミックソングがあったと思うが,曲名を忘れた.
 また同じく手元に資料がなくて出典を示せないのだが,江戸時代に書かれた料理本にも茶漬けを食う音は「さらさら」とされていた記憶している.

 このように昔から,「お茶漬けをさらさらと食べる」と表現してきた私たちの感性を,横っ面から張り倒したのが永谷園だった.

 ぶじゃじゃじゃじゃじゃじゃ ぐわしゃしゃしゃしゃしゃ

 人間が物を食う音とは思えぬ下品でけたたましい音と映像に驚いた視聴者は,永谷園に抗議したが,同社は完全に無視したのだった.
 (ちなみに,このCMの初期バージョンでは,恥知らずな食い方をする男の後ろで,それをうっとりと眺める若い女がいた.これは,ハウス食品の広告担当者がその無知故に批判を浴びたことで知られる「私作る人 僕食べる人」というCM (1975年) の,巧妙な変奏曲でもあった)

 さて最近のある朝,テレビをつけたらテレビ東京で《歴史の道 歩き旅》という新番組をやっていた.永谷園のCMが流れたので嫌な予感はしたのだが,果たしてCMに登場した男が,味噌汁「あさげ」を汚らしい音を立てて飲み,さらには,あろうことか卵かけご飯をすすり食った (註)

 企業のテレビCMは経営戦略的に非常に重要だから,その会社の経営者の承認を得てから放送される.つまりあのCMを良しとしてきた永谷園の歴代経営者は,普通の日本人が普通に食べるようには食事ができないのだ.卵かけご飯をすすり食い,下手をすると,くちゃくちゃと咀嚼して物を食うのかも知れない.
 テレビ番組は録画してから見ればCMを見ないで済むが,《歴史の道 歩き旅》はそこまでして見るほどの内容とも思えなかった.永谷園の提供でなければ流し見してもいいのだが.

(註) 茶漬けでも卵かけご飯でも,箸をゆっくり落ち着いて遣うこと,ハムスターのように頬が膨らむほど口いっぱいに詰め込まないこと,この二つを心掛ければ,さらさらと軽い音で食べることができる.普通の人はことさら意識せずにそのようにしている.
 永谷園の宣伝部に言いたい.社長が下品で落ち着いて食事ができない人間なら,品のよいCMを社長に拒否されないように,CMでは箸でなく匙で一口ずつ食わせるようにするんだ! 消費者の永谷園に対する生理的嫌悪感を減らせば売上の増加が見込める (かも知れない) ぞ.

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