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2016年4月13日 (水)

サンドイッチ初心者

 日本の英語教育は全くだめだ,という論をよく聞く.中学高校で英文法を教える必要なんかないというのである.
 言いたいことはよくわかるが,全面的には納得しにくい.
 明治以来,普通の日本人には英語圏の人と会う機会がなく,必要なのは書物やカタログを読むこと,手紙や論文を読み書きすることであったから,それが可能となる英語教育が行われてきた.英語の読み書きは職業教育であったのだ.
 それでは日本人のどれくらいが不自由なく英語を読み書きできるかというと,かなり少ないことは間違いないだろう.その意味では日本の英語教育は全くだめであるが,会話だけできればいいんだという考えにも賛成できない.義務教育では,読み書きと会話をバランスよく教えて欲しいものだと思う.

 さて私の英語はどうかというと,四十年近く前にアメリカに最初の出張をした.
 今と違って,駅前には必ず英会話学校があるという時代ではなく,読み書きにそれなりの自信はあったが,会話は全くだめであった.相手の言うことが聞き取れないのである.

 そんな有様だから,米国でのある日,サンドイッチ屋に入ったときに難儀した.
 そもそもサンドイッチ屋なる業態を知らなかったのが問題なのだが,ショーケースの向こうにいる陽気なアメリカ娘が "〇△$♯≒※?" とか言うのでまずパンを選んで指さした.いくつもあるパンの名前を知らなかったからである.
 次にまた彼女が "♯〇≒△※$?" と言うから,わけわからぬままにローストビーフを指さした.ちなみにこれが私の人生で最初のローストビーフだった.
 またさらに彼女が何か言うから野菜を選ばなければいけないらしいとは理解したが,私の発音が通じたのはトマトだけだった.

 あとでわかったのだが,それから野菜の量を普通か大盛かを指定し,ソースを選ぶ工程などが続くのであったが,もはや私の気力が続かなかった.トンチンカンな顔で「お勧めはなんですか」を連発し,フレンドリーで陽気なアメリカ娘もさすがに肩をすくめるポーズをとり,私はようやくサンドイッチを一つ手に入れたのであった.

 以上の経験がトラウマとなり,この歳になるまでサンドイッチ屋は敬して遠ざけてきた.
 しかし最近,老い先短い私は,やり残したことのないようにして静かに死んでいきたいと思うようになった.
 サンドイッチ屋トラウマ (註) を克服するのである.幸いにして藤沢駅の南側にサブウェイ SUBWAY があるので行ってみようと思う.たぶん英会話力は必要ないはずだ.

 しかし心配なので,一応「サブウェイ 注文の仕方」でウェブを検索してみた.
 するとサブウェイのサイトに《なれてきたらトッピング〈有料〉にもトライしてみよう!》と書いてあるではないか.
 やはりサンドイッチ屋では,《なれてきたら》でないとできない《トライ》が必要らしいのだ.
 それで次に,二番目にヒットした《初心者も怖くない!SUBWAY(サブウェイ)のオーダー方法まとめ 》を読んでみた.
 このサイトはとても親切に書いてくれているのだが,

「BLTをハニーオーツでトマト抜きね!それから、ハムをプレーンで野菜ましまし!」などと一気に言うとアテンダントさんも焦ってしまいますし、オーダーミスをしかねません。ひとつひとつ聞いてくれるので、丁寧に注文しましょう。

とあるのが気になる.
 丁寧にひとつずつ注文するのはいいが,問題は《野菜ましまし!》だ.
 客の若い娘さんたちに混じって,この年寄りがどの面さげて「ましまし!」などと言わにゃならんのだ.うう.

(註) 私にはその他にラーメン二郎トラウマもある.しかし驚いたことに《「ラーメン二郎」は怖くない!初心者のための楽しみ方 》というサイトがある.さらにもっとすごいのは《ラーメン二郎初心者も戸惑わずどんな注文もクリアできるコールジェネレーター 》だ.ネット社会は至れり尽くせりである.

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