鏑木清方美術館
宮部みゆきのいわゆる江戸物は,現在のJR山手線の新橋上野間よりも東側,隅田川の流れる界隈が主な舞台である.その江戸物の一冊,『堪忍箱』(新潮文庫) を読んでいる時に,ふと鎌倉の雪ノ下にある鏑木清方記念美術館のことを思い出した.この美術館にはかなり前に一度行ったことがあるのだが,何年前だったか覚えていない.
鏑木清方は明治の美人画家として知られるが,江戸の情緒を残す築地や深川の風俗画も画業にあったはず.それで昨日,鎌倉に出かけた.
『堪忍箱』をポケットに入れて藤沢からバスに乗り,終点の鎌倉駅到着は十二時ちょうどだった.のどが渇いたので小町通りの入口にある喫茶店ルノアールに入り,『堪忍箱』を読みながらコーヒー.
ルノアールを出て小町通りに入ると,中学生の大群が狭い通りを埋め尽くしていた.ぬれ煎餅やコロッケを立食いしている中学生たちを掻き分けながら小町通りを上がって行き,案内板が出ている辻を左折してすぐのところに鏑木清方記念美術館はある.(地図)
鏑木清方記念美術館は清方が晩年を過ごした自宅跡に建てられている.瀟洒な門構えの脇に展示案内の掲示があり,一月から二月にかけては企画展「清方芸術の起源」が開催中であった.
敷地の中に入ると玄関がある.開館は平成十年の四月だから,建屋はまだ古びていない.
観覧料は大人二百円で,驚きの低料金.ミュージアムグッズの売り上げなんか大したことはないだろうから,これはやはり運営が公益財団法人 (鎌倉市芸術文化振興財団) だからであろう.
展示の中心は浮世絵の系譜を引く美人画である.私は狩野派あたりの障壁画を見ても「あーそうですか」としか思わぬのであるが,浮世絵美人画の繊細さには溜息がでてしまう.清方の美人画も観飽きぬほど美しいが,今回観たかったのはスケッチ風の風俗画『朝夕安居』で,それは展示室の奥にあった.
同美術館の公式サイトには,残念ながら作品のサムネイルがない.しかし堂々たる著作権法違反のブログは,これとか,これとかがあるので「だめじゃん」などと言いながらご覧頂くことができる (爆).
さて一時間ほど鑑賞してから同館を出て小町通りに戻った.
昼食はどこにしようかと思案しながら通りを下り,美術館より一つ駅寄りの辻を右に曲がると聖ミカエル協会があり,そのすぐ先に小洒落たレストラン“BRUNCH KITCHEN”があった.
この“BRUNCH KITCHEN”というレストランは,雰囲気的にどうやら女性客御用達の店らしくて,ドアを開けて入ったときに店のスタッフが「あー納品は裏口にまわって.え,ウチで食べるんすか? まじすか?」という顔をした.
構わずズカズカと店の奥に入り,テーブルに案内されて店内を見渡すと,私以外全部女性客であった.「なにこの爺は」とでも言うかのような二月平年並み気温の冷ややかな視線にたじろぎながらメニューに目を落とすと,Brioche French Toast Brunch という,一品料理にフレンチトーストが二枚付く献立があった.料理は何種類か選べるのだが,「大山鶏のグリル」にした (よく知らないが大山鶏は神奈川の地鶏鳥取や島根の銘柄鶏らしい).
で,大山鶏のグリルをオーダーしたら,スクランブルエッグか目玉焼きが付け合わせなのだと女性のスタッフさんが言うのでスクランブルエッグにしてもらった.西洋親子丼か.
またしばらく『堪忍箱』を読んでいると料理が運ばれてきたが,フレンチトーストがかなり大きいので私は驚いてイスから転げ落ちた.
気を取り直して食べ始めたのだが,鶏のグリルの皿に盛りつけられたスクランブルエッグは,スクランブルしているうちに全部しっかり固まりましたという感じで,スクランブルエッグというより不定形の卵焼きであった.
このスクランブルエッグは鶏卵二個分で,フレンチトーストにも卵一個が使われているだろうから,この「大山鶏のグリル スクランブルエッグとフレンチトースト添え」には鶏卵が三個も使われているのであった.年寄りの一日あたりの鶏卵摂食許容量をはるかに上回る.上回るけれど,残すのはもったいないから,明日から節制せねばと思いつつ全部食べたのであった.
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