耐えがたいほど甘いパン
食欲は旺盛だが味覚は幼児レベルから発達していないという人がかなりいて,こういう人がテレビ番組でいわゆる食レポをすると,何を食べても「甘い!」としか言わない.
「おいしい!」と言えばいいところを,目を閉じて天井を仰ぎ,首を左右に数度振り,「甘いーっ」と言う.「まいうー」は一応ギャグだが,陳腐極まる「甘い!」で笑いはとれない.こういう使い古しの演技を恥ずかしいと思わないのであろうか.〈石野陽子さんは「甘い」と言ってもいいです ヾ(--;) 〉
まあ,テレビの食い物番組ってのはその程度のものだが,文章だとそうはいかない.昔から食通の作家物書きがいて,食い物について今も読み継がれる文章を残しているからである.食い物に係る文章を書けば必ずやそのような手本と比べられるのがわかっていながら,何を食べても「甘い!」としか書かないライターはきっと頭が軽いのであろう.
朝日新聞DIGITAL のコンテンツに《このパンがすごい!》がある.この連載企画の名称自体が『このミステリーがすごい!』のパクリであるから恥知らずなのだが,池田浩明という男が書いている中身の文章が本当に「すごい!」ので驚く.
例えば連載第二十三回《湘南が香るパンに、地元食材をたっぷりと 》を例にとり,この短い文章の中に「甘」がどれくらい出てくるか見てみよう.
(1) 《匂いを嗅いだだけで、その甘さに衝撃を受ける》
(2) 《小麦と塩だけのパンと思えないほど甘さが輝いていて》
(3) 《ゆっくりと訪れる甘さはじょじょに高まって、そのうち耐えがたいほど激しくなると》
(4) 《nicoのパンを特徴づける甘さと香ばしさの共犯関係》
(5) 《甘さはレーズンから起こした発酵種によるもの》
(6) 《甘さと旨味がすごく出る感じです》
(7) 《パン・ド・ロデブ同様に甘さと香ばしさを味わえる秀逸なものだ》
(8) 《そしてクルミという旨味と甘さの波状攻撃に対し》
(9) 《ハムやチーズに優って実はいちばん甘いことに驚く》
(10) 《カスタード、チョコ、バターといった甘さたち》
(11) 《ミルキーにして甘ささわやかなベシャメルソース》
(12) 《甘さにあふれたバゲットとともにそれらをまとめあげる》
《甘さはじょじょに高まって、そのうち耐えがたいほど激しくなる》に至ってはもう「どれだけ甘いのだよ!」と,読んでいて爆笑してしまう.耐えがたいくらい甘いのなら,我慢せずに吐き出しなさい.
こんな作文で金を稼ごうという男も男だが,稼がせてやる新聞社も情けない.《このパンがすごい!》はパクリだし.
| 固定リンク
「新・雑事雑感」カテゴリの記事
- 何も調べずに書き飛ばす妄想ライター窪田順生(2023.03.23)
- デジタル分野の労働者(2023.03.22)
- 国家資格 /工事中(2023.03.20)
- くしゃみの語尾(2023.03.19)
- 大衆回転寿司とかファミレスは巨大な自動販売機だ /工事中(2023.03.18)
「食品の話題」カテゴリの記事
- 食品のブランドは製法とは無縁のものか /工事中(2022.06.30)
- 崎陽軒の方針(2022.05.06)
- 青唐がらし味噌(2022.03.27)
- 成城石井のピスタチオスプレッドは(2022.02.17)
- インチキ蕎麦 /工事中(2022.02.06)
コメント