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2016年2月 5日 (金)

O・ヘンリーと蕎麦 (五)

 前稿で《まことに泣きたくなるほど暗い話である》と書いた.しかし「賢者の贈りもの」はドンデン返しの結末を迎えるのだ.

 物語の結末でデラは,髪に飾られるはずだった櫛を胸に押し当てて涙を流したが,
ようやく涙に曇る目を上げて、うっすらと笑みを浮かべ
て,こう言った.
「あたし、髪が伸びるの速いから」
 この立ち直り.アメリカ女のこのポジティブさ.“Tara! Home. I'll go home. And I'll think of some way to get him back. After all… tomorrow is another day.”みたいな.お前はスカーレットか,みたいな.

 そして,金時計にプラチナの鎖を付けてとせがむデラに,ジムは笑顔でこう言った.
あの時計は売っちゃった。櫛を買いたかったからね。さてと、肉を焼いてもらおうかな》(以上,《》は小川高義訳)
 この明るさ.アメリカ男のこのタフさ.「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」みたいな.お前は相田みつをか,みたいな.

 この結末について訳者は次のように書いている
とんちんかんな贈りものを交換する若い男女を、たしかに愚かしいと判じながらも、その馬鹿な話を肯定してみせる。
まあ、こんなものだよ、という目を向けてやる。
この作家のユーモア、ペーソスの基盤には、そんな「定型」があるのではないか。

 まことに行き届いた解説である.有隣堂書店でO・ヘンリーの短編集を買うときにどれにしようか迷ったのだが,やはりこれ (『賢者の贈りもの O・ヘンリー傑作選I』小川高義訳) にして正解だったと私は思ったのである.
(続く)

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