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2016年2月12日 (金)

O・ヘンリーと蕎麦 (七)

 「すい庵」の二人席に腰を落ち着けた私は,品書きから板わさと烏賊天ぷらを注文した.蕎麦前の酒肴一品には,他に焼海苔,玉子焼,お新香,なめこ,山芋,鴨料理,天ぷら等々,蕎麦屋料理の定番が揃っている.
 酒は菊正宗樽酒と,奈良,山形,新潟の吟醸酒が置いてある.

「すい庵」は,たぶん藤沢駅周辺では一番のうまい蕎麦屋であるけれど,いかがなものかと思う点もあって,それはいささか奇をてらった杉板細工の徳利を使用していることだ.自宅で使うものなら自己責任だから実用的でなくても構わないが,飲食店の場合は微生物 (カビ,バクテリア) 繁殖の心配がない衛生的な酒器にすべきである.とりわけ蕎麦屋は,白一色の磁器でありきたりの形の徳利が,きりりと潔いと思うのだが,どうであろうか.

 さて,品書きに板わさや玉子焼が書かれているような蕎麦屋での一人酒が快適なのは,酒と料理を注文するとき以外は客をほったらかしにしてくれるところだ.客が少なく静かな昼過ぎの店内で,酒を飲みながら新聞を読もうが読書しようが嫌な顔をされることはない.
 これが鮨屋とか小料理屋であるとそうはいかない.カウンターで本を読むのは不作法だし,周囲から浮きまくって要注意人物そのものだ.また基本的に料理店であるフレンチやイタリアンの店はそもそも一人客は入りにくい.
 昔は喫茶店で読書するのは日常普通のことだったのであるが,今はその種の喫茶店は少なくなった.首都圏都市部なら「ルノアール」があちこちにあるから不自由はないが,藤沢あたりだと忙しないスタバとかドトールみたいなコーヒーショップばかりになってしまう.それで最近は,本屋の帰りには蕎麦屋に寄ることが多い.

 どこの蕎麦屋でもそうだけれど,燗をつけない清酒と板わさを頼めば,これはすぐに出て来る.そこでまずぐいのみに酒を注いで一口に干し,それから『賢者の贈りもの O・ヘンリー傑作選I』では「賢者の贈りもの」の次に置かれている「春はアラカルト」を読み始めた.
(続く)

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