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2015年12月27日 (日)

包丁のこと

 半年ほど前のことになるが,中国事情通によると,電気製品や便座に続く次の中国人の爆買ターゲットは,日本製の包丁だといわれていた.
 なるほど今月の12日,中国版ツイッターである微博で,日本の包丁の切れ味がいかに良いかを紹介する投稿があったという (Record China 12/12 12:40 配信).この記事に添えられている画像は日本の出刃包丁である.
 しかしこの報道で私が「ん?」と思ったのは,次のごときネットユーザーの反応が書かれていたことである.

「だから日本に行って包丁を買ってくる人があんなにもたくさんいるのか」
「この包丁はいいな。どこで買えるんだ?」
「こんなにもよく切れる包丁なら私にも1本ください」

 私の知る限り中国料理で用いられる包丁は,非常に身幅が大きいいわゆる中華包丁であり,和包丁のように色々な形状の包丁はない.(画像)
 中国料理において食材を「切る」というのは,薄刃の中華包丁の切っ先で小さな野菜などを刻むこともするが,基本は「叩き切る」か,または包丁の重みを利用して上から落とすようにして切ることである.このような使い方では,刃の切れ味はあまり意味をなさない.
(中国のまな板が分厚くどっしりとした円筒形なのは,この包丁の使い方に最適である)
 すなわち軽くて鋭い切れ味を旨とする和包丁は,中国料理では使いにくい包丁なのである.だから上に引用したネットユーザーの反応は「ん?」なのである.料理などしたこともない若い者の声なのではないだろうか.
 Record China の記事には次のような声も紹介されている.

「すぐに指を切ってしまいそうだ。実用的とは思えない」
「切れ味の良すぎる包丁は使う勇気はないな。自分の指まで切ってしまいそうだから」
「こんな切れ味のいい包丁を使う勇気はない。野菜と一緒に指まで落としてしまいそうだ」

 私には,こちらの声のほうが常識的な反応ではないかという気がする.別に日本製品に対するやっかみとは思われない.

 大昔,私がまだ二十代の頃の『暮しの手帳』に書かれていた記事であったか,それとも後に『吉兆味ばなし』(暮しの手帖社) で読んだことであったか記憶が判然としないが,吉兆の創業者湯木貞一が概ね次のようなことを書いていた.

「刺身を切るとき,包丁の刃は細胞と細胞のあいだを切らなければいけない.」

 そうしないと切断面が滑らかにならないからであるというのだが,生物学的物理学的事実なんぞは物ともせず,ここまで刃物の切れ味に精神性を持たせる物言いは,いかに吉兆主人といえど如何なものか.私には《すぐに指を切ってしまいそうだ。実用的とは思えない》との中国人の感想の方が微笑ましく好感が持たれるのである.

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