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2015年12月 1日 (火)

片岡義男『歌謡曲が聴こえる』(一)

 私はこれまで,片岡義男の書いたものを一冊も読んでこなかった.
 片岡義男は1970年代の後半に現れて多彩な活動を開始し,その当時の若者たちの絶大な支持を得たが,片岡の振りまいていた軽々しい雰囲気が私には気に食わなかった.貧しい家に生まれ育ち,貧乏学生として大学生活を過ごし,社会人になってからは地方の工場勤務となって,まるでパッとしない毎日を過ごしていた私には,片岡はまるで別世界の人のように思われたのである.
 これはもう食わず嫌いとしかいいようがないが,エッセイを『ポパイ』などの軽薄雑誌に載せているというだけで,昭和の貧乏青年に片岡は毛嫌いされても仕方なかったのではあるまいか.
 しかし先日どういうわけの事柄か,本屋の棚にあった片岡義男の本を買ってしまったのである.気の迷いというやつだ.
 購入したのは『歌謡曲が聴こえる』(新潮新書) だ.発行日は昨年の十一月二十日で,ちょうど一年前の出版である.
 片岡はこの本の中で戦後にヒットした歌謡曲について語っているのだが,これが意外にもおもしろかった.
 例えば,戦後のヒット曲第一号として知られる並木路子の『リンゴの唄』に歌われる「リンゴ」が何を意味しているかについて,片岡は独自の解釈をしてみせる.なぜそのような解釈が可能かを片岡は説明しきれていないのだが,しかし「リンゴ」の意味をそのように受け止めた片岡の感性には,戦後生まれの私にも,なるほどと納得しうるものがある.
 死ぬまでに読みたい本は山のようにあるので,片岡義男の小説を読むことがあるかどうかはわからないが,しかし食わず嫌いはよくないなあと思った一冊である.

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