続・猫物語
記事《猫物語 》と《やっぱり猫が》を書いたあと,群ようこの「猫物語」を何冊も続けて読んだ.
その中から,彼女と関わりのあった猫たちとの日常を雑誌に連載したものを時期順に挙げると『ビーの話』『しいちゃん日記』『おやじネコは縞模様』であるが,この他に『たかが猫、されどネコ』や『トラちゃん』なども読んだ.
人と猫たちとの日常には,波瀾万丈のことは起きない.猫は寝て食べてまた寝るを毎日繰り返す生き物であるからだ.
では群ようこが,何年も同じことの繰り返しのような話を書き続けているかというと,そうではない.
例えば隣人 (もたいまさこ) の飼い猫であるビーちゃんと群ようこは『ビーの話』の中で次のように描かれる.
《十五分ほど亀さんになったあと、ビーは
「うにゃっ、うにゃっ」
と鋭く鳴きながら、駆け寄ってきた。
そして
「どうしたの」
といった私に、
「わあお、わあお」
と必死に訴える。
「ビーちゃん、心配しなくても大丈夫だから、ねっ、ちょっと行ってきてごらん」
そういって抱っこしても、すぐ体を揺すって床に降り、
「うわあ、うわあ」
と鳴いて落ち着きがない。》
これは至って普通である.それが,『しいちゃん日記』のあとに書かれた『おやじネコは縞模様』になると,野良猫のしまちゃんとの対話は次のようになる.
《「どうしたの? お腹すいているんでしょ。いやなの? なんで?」
(これよー、食べ残しじゃねえかよー)
「こっちはそうだけど、新しいのも入れてあげてるじゃないの」
(きらいなんだよ、これ)》
人語を解する猫なのか,猫語を話す人なのか.
いずれかわからぬが,猫のしまちゃんを相手に,群ようこは直接の会話をかわす高みに到達しているのである.そして彼女の飼い猫のしいちゃんに対して,しまちゃんを「あのヒト」と呼んで噂話をするのであった.
ここに至って読者は,群ようこが猫界に足を踏み入れた人となったことを知る.
だから彼女は,寿命を全うしたビーちゃんや,人知れずあちらに旅立ったしまちゃんの霊が彼女のマンションを訪れると,その存在を感知して,飼い猫のしいちゃんと一緒に彼らを懐かしむのである.
群ようこの一連の「猫物語」は,人よりも早く一生を終える猫たちを,愛情をこめて見送る物語である.私は犬の飼い主であるが,いつか私の犬が旅立つとき,彼女と猫たちのよう(*) にありたいと思う.
[(*) 追記]
彼女の優しい眼差しは猫に対してだけ向けられるものではない.「犬のピーター君の話」(集英社文庫所収) という哀切な作品もある.
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