果てしなくダメな物語
空想癖は小学生くらいの子供の頃にありがちなことだろうと思う.しかしそれはいつしか消えてしまう.子供は,自分の手に余る現実への対応で,とても空想どころではなくなってくるからだ.
心理学に詳しい人に教えて欲しいと思っているのだが,小さな子供の空想には二種類あると思われる.それは一つには漫画月刊誌の『鉄腕アトム』を読んで,科学の発展した明るい未来を夢見るといった類の空想(A)と,もう一つ,何かにつけて自分に辛くあたる母親が実は実母ではなく,本当のやさしい母は遠く離れたところにいるのだと思う空想(B)の二つである.
空想(A)には,ディズニー映画のようなファンタジー世界の空想も含まれるだろう.もちろん(A)と(B)は排他関係ではないから,空想癖のある子供の心の中には,ファンタジー世界と,自分は橋の下に捨てられていた孤児なんだという物語が同居していると思われる.
それはさておき,かつて話題になったけれど何となく見損なってしまった映画を,このところ安価なDVDで観ている.先日の記事に書いた『ニューヨーク東8番街の奇跡』もその一つだ.
『ネバーエンディング・ストーリー』は,映画会社 (ワーナー) と原作者との間で一悶着あったことで私の記憶に残った作品である.
原作はミヒャエル・エンデの『はてしない物語 (Die unendliche Geschichte)』である.その「一悶着」を Wikipedia【ネバーエンディング・ストーリー】は次のように書いている.
《決裂を決定的とする上で致命的だったのは、映画のラストシーンが、エンデの意図とは正反対であることである。映画の主人公バスチアンは、本の世界「ファンタージェン」の力を借りて、現実世界のいじめっ子に仕返しをする。エンデはこれについて真剣に腹を立て「このシーンをカットして欲しい」と告訴に踏み切る事となった。裁判の結果は、エンデの敗訴となり、「ミヒャエル・エンデ」の名前をオープニングから外す事で、なんとか和解した。》
さて映画『ネバーエンディング・ストーリー』を観ての感想だが,これはもう駄作の一言に尽きる.
子供は,自分の手に余る現実への対応で,とても空想どころではなくなってくると,その心の中の「ファンタージェン」は崩壊してしまう.しかし心の中には「ファンタージェンの女王」が生き残っていて,砕け散った「ファンタージェン」の欠片の一粒を持っている.それさえあれば,また「ファンタージェン」は復活できるのだ.
これは,児童向けファンタジー映画に込められたメッセージとしてまことに正統的なものであるのだが,それが唐突にラストシーンでぶち壊しになる.Wikipedia が書いている通り《映画の主人公バスチアンは、本の世界「ファンタージェン」の力を借りて、現実世界のいじめっ子に仕返しをする》のである.「ファンタージェン」のドラゴン「ファルコン」が何の説明もなく突然として現実世界に登場し,それに打ちまたがった主人公バスチアンは,自分をいじめた子等に仕返しをし,高らかに笑うのである.もうほんとに児童向け映画としてサイテーのラストシーンである.
「ファンタージェン」の道具でいじめっ子に仕返しをするのは『ドラえもん』と同じ筋立てである.しかし『ドラえもん』各話の最後において,のび太は「ひみつ道具」を使った仕返しがむなしいことであることを悟り,成長していく.映画『ネバーエンディング・ストーリー』のそれと比較して,なんと素敵なメッセージだろうか.
私は映画『ネバーエンディング・ストーリー』があまりにも酷かったので,これに怒ったという作者の原作『はてしない物語』を読んでみるかと思ったのだが,Wikipedia【はてしない物語】を閲覧してみたら,こんなことが書いてあった.
《登場人物
バスチアン・バルタザール・ブックス (Bastian Balthazar Bux)
現実世界に住む、デブでエックス脚ののろまな少年。いつもいじめに遭っている主人公。イニシャルはBBB。ファンタージエンでは美少年に姿を偽る。》
これには私は実に驚いて,椅子から転げ落ちた.
つまり作者によるいじめられっ子のキャラクター造形は,「デブ」「エックス脚」「のろま」なのである.「エックス脚」が「いじめられ要素」である理由はよくわからぬが,『はてしない物語』は「デブ」な「のろま」が《美少年に姿を偽る》という話であるらしいのだ.
こんな話は読んでみるまでもない.ミヒャエル・エンデというサイテー野郎が,よくまあサイテー映画に異議を申し立てて裁判にしたものである.映画がダメダメなら原作も目くそ鼻くそなのであった.
昭和の中頃まで,この国には,容姿や体形などの外観でひとを嘲笑ってはならぬという価値観が生きていた.そういう価値観で生きてきた私は思うが,子供には『はてしない物語』なんぞ買い与える必要はない.アニメ『ドラえもん』のほうがはるかに優れた童話だからである.
余談だが,『はてしない物語』に登場する書店主カール・コンラート・コレアンダー (Karl Konrad Koreander) のイニシャルは KKK だと Wikipediaにある.KKK ってのは問題にならぬのであろうか.
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