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2015年11月22日 (日)

設定の意味がわからない (補遺)

 昨日の記事《設定の意味がわからない》について補足する.
 まず,税についての基礎知識を短くまとめる.以下は日本の税金に関する説明であるが,諸外国でも先進諸国ではほぼ同じと考えてよい.

 税金には普通税と目的税とがある.
 普通税とは税収の使途を特定していない税金のことであり,一般税とも呼ばれる.
 この普通税に対し,予め税収の使途が決まっているものは目的税と呼ぶ.
 普通税は国や地方公共団体の一般財源に充当される税で,目的税と比べると課税対象者を限定せずに広く課税される傾向がある.
 代表的な普通税には,所得税,法人税,消費税などがある.税は,原則的に普通税である.
 普通税のうちで地方税法により税目が定められているものを法定普通税という.
 法定普通税の他に,地方自治体が条例の制定など一定の手続きを経た上で住民に課税するものを法定外普通税という.

 普通税に対して,目的税は税収の使途を予め特定している税金をいう.
 そのため、普通税に比べると税負担者が限定される傾向にある.その税収の使途によって恩恵を受けない者からも徴収することは,納税者の納得を得ることが著しく困難であるからである.例えばよくあるのは都市基盤整備に使用される「事業所税」であるが,これは法人から徴収し,一般市民には課税できない.
 目的税にも普通税と同様に,法によって定められた法定目的税と,各地方自治体の判断で設立される法定外目的税がある.一般に目的税と呼ばれているものは,法定目的税のことであるが,法ではなく条例によって課税する法定外目的税もないわけではない.

 さて話を映画『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』に戻す.
 この映画は,ヨーロッパのある地方都市で,雑種犬の飼い主に重税を課すという条例が制定されたということから始まるという.
 雑種犬の飼い主は,納税者の一部である犬の飼い主の,そのまた一部であるからして,その税収を一般財源に充てることには困難を伴う.仮に市長が,その税収を一般財源に宛てようとしても,これが近代的な (映画のプロモーション動画を観た限りでは,物語の舞台は北朝鮮でも中国でもなくヨーロッパである) 議会の承認を得られるとは思われない.
「雑種犬にのみ課税し,純血種には課税しない」というのは,ある種の不穏な意図を感じさせるのであるが,それは何であるか.単に「雑種犬の繁殖および所有を禁止する」とすれば,むちゃくちゃな条例ではあるが,物語の設定としてはあり得るだろう.しかし,雑種犬にのみ課税するということが,上に述べた現代の税の枠組みの中で,税制的に可能なのか.課税に耐えられれば雑種犬を飼ってもいいが,そうでなければ納税しなければいけないというのは,一体どんな税の論理なのか.
 さらに,こんな意味不明な条例が制定されたのに,その街の市民が唯々諾々と従っているのはなぜか.

 『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』の監督が,映画の冒頭で「雑種犬にのみ課税し,純血種には課税しない」条例について近代国家の納税者が納得できる説明をしているのならよいが,そうでなく唐突に「ある地方都市で,雑種犬にのみ課税し,純血種には課税しない条例が制定された」としか描いてないなら,この監督は,中学生以下の大馬鹿野郎である.
 もしも監督が反社会的な大馬鹿野郎でなく,『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』がまともな作品なのであれば,日本公開前にこの映画を観た者は,まずこの映画の税に関する設定について説明しなければならないが,誰もそうしていない.映画のレビューとして当然書くべきことを書かずに「犬版の『猿の惑星』だ」などと能天気なレビューを書くのは,監督同様の大馬鹿野郎である.『猿の惑星』に失礼だ.

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