イムジン河 (十四)
[3.同胞を労働力として]
朝鮮半島事情に詳しい関川夏央は『昭和三十年代演習』や『やむを得ず早起き』に,「在日朝鮮人の帰還事業」は,朝鮮戦争で大きく失われた労働力を金日成が獲得しようとしたものだと書いている.
しかし Wikipedia【在日朝鮮人の帰還事業】には,次のように否定的な見解が示されている.
《また、朝鮮戦争で荒廃した国土を再建するための労働力補充も目的だったとする見方があるが、北朝鮮側の政策資料に日本から帰還した朝鮮人の影響が現れないことや、北朝鮮への帰還者には労働力としては期待できない被扶養世代が多く含まれていることから、このような大規模な移住を推進する直接の原因と考えにくいとして疑問視する声もある。》
上の引用箇所については,《北朝鮮側の政策資料に日本から帰還した朝鮮人の影響が現れないこと》は,そもそも北朝鮮には統計数字のような根拠に基づいて政策を決定するという能力がなかったとすれば不思議ではない.経済政策の資料が嘘であるのは,現在の中国が今もやっていることだ.
また,経済が破綻し,当時の社会主義諸国からの経済援助が最大の「産業」であった北朝鮮には,「帰還」者には働きたくても働く場がなかったと考えられるのではないか.前稿に書いたように,「帰還」者からの生活物資援助要請は,それを示しているのではなかろうか.
《北朝鮮への帰還者には労働力としては期待できない被扶養世代が多く含まれていること》も,労働力説を退ける根拠としては納得しにくい.
私見だが,金日成の最初の目論見は「帰還」者を労働力として補充することだったのだが,日本で暮らしていた「帰還」者は北朝鮮の劣悪な労働環境に耐えられなかったので,棄民されたのかも知れない.ここは関川夏央の説に分がありそうだ.
(続く)
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