イムジン河 (六)
この連載記事を書き始めたきっかけは,今月七日に行われた安倍内閣改造で,拉致問題担当相に初入閣の加藤勝信氏が就任したことであった.(記事「新内閣と拉致被害者問題」10/8)
改造内閣人事を伝えた時事通信によれば,拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さんは《担当相が次々代わる上に兼任となったことに「本当にやる気があるのか政府に問いたい」と苦言を呈した》という.
まことにその通りであると思う.しかし,怪情報と嘘をばらまく青山繁晴がニッポン放送「ザ・ボイスそこまで言うか!」でしゃべったことによれば,北朝鮮による日本人の拉致問題解決は,祖父岸信介以来の安倍晋三の悲願だというのである.
何を言うか青山繁晴,としか言いようがない.何を隠そう,金日成の息子の金正日が熱中した外国人の一本釣り拉致 (中には,自分が映画マニアであるため韓国の映画監督申相玉とその妻で女優の崔銀姫を拉致したなどのふざけた拉致もある) どころか,北朝鮮への大量拉致あるいは集団拉致とも言うべき「在日朝鮮人の帰還事業」を国の公認事業として後押ししたのは岸信介に他ならないのである.
鳩山一郎にとって「在日朝鮮人の帰還事業」は「友愛」の実践だったかも知れない.小泉純也にとっては選挙区の朝鮮総連からの強い要請であったかも知れぬ.だが岸信介にとって「在日朝鮮人の帰還事業」は何であったか.
(ちなみに,青山繁晴に言わせると鳩山一郎はソ連の秘密資金援助で財を成した売国者であり,そのことをプーチンに脅された鳩山由紀夫は今もロシアの言いなりなのだそうだ.そして小泉純也は北朝鮮の傀儡だったが,いずれも根拠は公表できないとしている〈笑〉)
岸信介の第二次内閣は1958年6月12日に発足したが,その政治課題は日米安全保障条約改定であった.翌年3月,日本社会党,日本労働組合総評議会 (総評),原水爆禁止国民会議 (原水禁) などが安保条約改定阻止国民会議を結成して反対運動の気運が起きつつある時に,岸としては在日朝鮮人による治安上の懸念を払拭しておきたかったのではないだろうか.まさに Wikipedia に書かれている「厄介払い」だったろう.
しかし昭和の妖怪岸信介も,北朝鮮への「帰国」者を待ち受けていた運命までは予測できなかったと思われる.「帰国」が始まって間もなく,北朝鮮の恐るべき実態が明らかになる前に亡くなった鳩山一郎と岸信介は,自分たちがどれほど非人道的なことをしてしまったか悔やまずに済んだわけだが,1969年まで生きた小泉純也は,明らかになってしまった自分の失敗をどう思ったろうか.
さて後回しになったが,金日成の指揮下に行われた「在日朝鮮人の帰還事業」の,北朝鮮側の目的とされているものを次稿で紹介する.
(続く)
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