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2015年10月29日 (木)

イムジン河 (十五)

 前稿まで,「在日朝鮮人の帰還事業」のあらましを書いてきた.
 この「帰還」事業は,北朝鮮の金王朝を樹立した金日成の悪魔の思い付きを,手先となった朝鮮総聯と日本共産党が実行したものであった.そしてこれに岸信介が政府のお墨付きを与えて推進した.
 後に路線の対立から朝鮮労働党と絶縁した日本共産党は,恥ずかしげもなく今では「あれはみんなでやったことだ」と,自分たちがこの大規模拉致事件に加担したことに知らぬ顔をきめこんでいる.
 日本共産党が朝鮮労働党と絶縁したあと,教祖金日成を信奉して朝鮮労働党の友党となった日本社会党は今はもうない.社会党は分裂改称して社会民主党となったが,社会党と社会民主党の党首であった土井たか子は,「在日朝鮮人の帰還事業」に社会党が協力したことを自己批判するどころか,金王朝二代目がやった多くの拉致事件に関しても「北朝鮮がそんなことをするはずがない」と言い張った.社会党の思想的後継者である福島瑞穂は,今も自らを土井チルドレンであると称しているが,「在日朝鮮人の帰還事業」については黙して語らない.土井が死んだ時,彼女が北朝鮮礼賛者だったことを書いた新聞は一紙もなかったが,福島瑞穂も,折角の土井を批判できる機会に何もしなかった.
 安倍政権は,北朝鮮による日本人拉致事件の担当大臣を,一億総なんとか大臣との兼務として,解決に努力する気がないことをあからさまにしたが,安倍晋三の息がかかったデマゴーグ青山繁晴は「岸信介は『在日朝鮮人の帰還事業』に反対していた」と歴史を捏造する大嘘を宣伝している.
 金日成に頼まれたわけでもないのに,北朝鮮こそ「地上の楽園」であるとはしゃぎ回って,日本人を含む約九万四千人の人々の背中を押した日本の「知識人」は,誰一人自己批判せずに鬼籍にはいった.
 新聞社も,統一記者団を北朝鮮に派遣したにもかかわらず,事実を報道せずに嘘でたらめを書いて,在日朝鮮人たちの地獄への道に善意という石を敷き詰めた.今に至るまで一紙も自己批判していないが,都合がわるくなると鮮やかに掌を返してみせる朝日新聞社だけは,こっそりとこんなものを出版して,かつて北朝鮮を褒めたたえた朝日新聞社の歴史を捏造しようとしている.

 最後に,この連載を「イムジン河」としたわけに触れる.
 戦後生まれの文筆家でザ・フォーク・クルセダーズのヒット曲「イムジン河」 と「在日朝鮮人の帰還事業」の関わりについて書いているのは関川夏央一人である.
 私と同世代であり,私と同じ時期に深夜放送で「イムジン河」を聴いた関川は,この曲は Wikipedia【イムジン河】に書かれているような北朝鮮のプロパガンダ曲ではなく,その旋律と日本に伝えられた時期からして,「在日朝鮮人の帰還事業」によって北に渡航してしまった在日青年の作ったものではないかと言う.歌われているイムジン河は,実は臨津江に仮託した日本海なのではないかとする.これは関川夏央の直感的な推測ではあるが,私にも,もしかしたらそうかも知れない思われ,それでこの連載のタイトルを「イムジン河」とした.
(了)

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