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2015年10月10日 (土)

イムジン河 (二)

 帰国した金日成は,ソビエト連邦の独裁者スターリンの傀儡として活動を開始した.
 朝鮮半島の民族主義者,社会主義者の中で金日成は全くの少数派であったが,ソ連国籍を持つ親ソ派朝鮮人と共に,まず軍と警察を手中にした.
 続いてスターリンを後ろ盾とした金日成は,日本統治時代の朝鮮における独立運動すなわち三・一運動以来の古い民族運動家 (その多くは社会主義者であったが) を逮捕,拷問,見せしめ裁判,処刑というスターリン直伝の手法で粛清し殺し尽くした.金日成のこの残虐性は子と孫に増幅継承され,遂には政敵を粛清するに際して,対空機関砲を打ち込んで一片の肉片も残さず殺戮するという金正恩の破滅人格となって顕現した.
 こうしてすべての政敵を葬った金日成は,1972年12月28日,前日に公布された朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法に基づいて国家元首として国家主席の地位に就いた.同時に朝鮮労働党総書記および朝鮮人民軍最高司令官として党と軍の最高権力を掌握して独裁体制を確立した.さらに1977年,金日成は共産主義者の仮面を脱ぎ捨て,マルクス・レーニン主義すら捨てて「主体(チュチェ)思想」を唱え,いわゆる金王朝を樹立したのであった.
 権力闘争にはかくも長けた金日成であったが,政治の根本すなわち国民を養う国家運営については全くの無能者であった.金王朝の北朝鮮における主産業は農業でも工業でもなく,社会主義諸国からの援助だった.そして国家としての体を成していなかった北朝鮮は,社会主義諸国の経済が傾くとともに主産業=援助を失い,やがて多くの北朝鮮国民は飢えて餓死することとなったのである.
 そのような状況下に,北朝鮮への在日朝鮮人の帰国運動が活発化した.Wikipedia【在日朝鮮人の帰還事業】から以下に主要な事実を抜粋列記する.

1955年2月  北朝鮮の南日外相が日本へ国交正常化を呼びかけ。
    5月  在日本朝鮮人総聯合会 (朝鮮総連) 結成。
    7月15日、朝鮮総連の主催で「朝鮮人帰国希望者東京大会」が開催される。全国の帰国希望者415名、うち東京に100名と発表。

 1956年6月20日、北朝鮮が内閣命令第53号『日本から帰国する朝鮮公民の生活の安定に関して』公布。
    7月16日、赤十字国際委員会が日本・北朝鮮・韓国の赤十字に対して、在日朝鮮人問題を解決するために赤十字国際委員会が貢献することを提案。書簡・覚書の形で翌年まで数次にわたる。

 1957年10月、第19回赤十字国際会議がインドのニューデリーで開かれる。各国の赤十字に離散家族への注意を喚起するとともに、「あらゆる手段を講じて、これらの大人及び子供が、その意思に従い、幼少の子供にあっては、何処に居住するとを問わず、家長と認められる人の意志に従って、その家族と再会することを容易ならしめる」責任を課すことを、決議第20として採択する。

 1958年3月18日、衆院外務委員会で在日朝鮮人問題の審議
    7月14~15日、金日成、ソ連代理大使 V・I・ペリシェンコと会談。金日成が在日朝鮮人受け入れの意思を示すとともに、ソ連に支援を求める。
    8月11日、神奈川県川崎市の朝鮮総連分会が金日成首相(当時)に帰国を嘆願する手紙を送ることを決議。集団的な帰国運動の嚆矢と位置づけられている。
    9月8日、金日成が在日朝鮮人の帰国を歓迎する旨言明。
    9月16日、南日が「在日朝鮮公民の帰国問題と関連して」との声明を発表。
    10月16日、北朝鮮の金一第一副首相が帰国問題に関連した談話を発する。その中で帰国に要する船を用意することを明言。
    11月17日、在日朝鮮人帰国協力会(鳩山一郎会長)の結成総会が衆院第一議員会館で開催。

 1959年2月16日、北朝鮮が内閣決定第16号『日本から帰国する朝鮮公民の歓迎に際して』決定。
    2月13日、日本政府が在日朝鮮人の北朝鮮帰還に関する閣議了解を行なう。
    8月13日、インドのカルカッタにて、日本赤十字社の葛西副社長、朝鮮赤十字会の李一卿副社長との間で「日本赤十字社と朝鮮民主主義人民共和国赤十字会との間における在日朝鮮人の帰還に関する協定」(カルカッタ協定)が結ばれる。
    9月7日、同日付の週刊「朝鮮総連」に『地上の楽園』という言葉が掲載。
    12月14日、第1次帰国船が新潟港を出港。
    12月16日、第1次帰国船が清津港に入港。


(続く)

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