イムジン河 (十一)
前稿で引用した日本共産党・不破哲三議長 (当時) の発言中,唖然とするのは次の箇所である.
《私たちも、この運動には協力しましたが、運動そのものは、多くの政党・団体が参加して超党派の形で進められました。》
金日成/朝鮮労働党を「在日朝鮮人の帰還事業」という人道に関する犯罪の主犯に例えれば,宮本顕治/日本共産党が共同正犯であることは衆人が認めるところであるにもかかわらず,まるで他人事のようなこの無責任ぶりはどういう神経なんだろう.
学生時代に共産党員 (党中央=宮本顕治を批判したために除名) だった評論家の森田実が次のように書いている.
《共産党の大幹部のなかには、あまり常識的人物は見当たりませんでした。陰湿な権威主義者、官僚主義者が多かったと感じました。道徳的にすぐれた人物にもほとんど会いませんでした。自己中心主義者や観念論者が多かったと思います。1955年の六全協以後、私は事実上、共産党中央と対決し続けていました。訣別は時間の問題だと、十分にわかっていました。》
宮本顕治に引導を渡したのは不破哲三だとされており,もしかすると不破哲三は宮本顕治のような《陰湿な権威主義者、官僚主義者》《自己中心主義者》ではないかも知れないのだが,しかし仮にそうだとしても,スターリン批判を行ったフルシチョフほどの勇気が遂に不破にはなかったということになる.それは政党指導者としての不破の人格的欠陥であっただろう.
いかなる過ちを犯しても反省せず,他に責任を押し付け,押し付けられぬ場合はスケープゴートを切り捨てて,党中央は関与していないと言い張る.あるいは,まるでなかったことのようにしらばくれる.それが日本共産党の特徴である.
「しらばくれる」方式は,寺尾五郎の件が典型である.
寺尾五郎は悪名高い北朝鮮礼賛本『38度線の北』の著者である.「在日朝鮮人の帰還事業」が動き始めた1958年に日本共産党本部の専従党員であった寺尾は,同年に『38度線の北』を出版した.そしてこの本に書かれている真っ赤な嘘を信じたために,多くの在日朝鮮人が北朝鮮に「帰還」し,人生をめちゃめちゃにされたのである.
専従党員が党本部 (=宮本顕治) の指示なく勝手に本を出版することはありえない.北朝鮮礼賛本を書けとの党の指示があったはずである.
寺尾は,北朝鮮が「地上の楽園」ではないことを承知で,『38度線の北』を書いたとの証言がある.党幹部の指示ならば平気で嘘をつく寺尾のような男を人間のクズ,卑劣漢というのであるが,書かせた宮本顕治はそれ以上のなにものかである.
しかるに不破哲三は,寺尾五郎や宮本顕治のやったことを,まるでなかったことのようにして,知らぬ顔をしている.胸は痛まぬのであろうか.
(続く)
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