今年のノーベル賞
今年の日本のノーベル賞受賞者は,一昨日の五日に医学生理学賞受賞が発表された大村智・北里大学特別栄誉教授と,昨日のノーベル物理学賞受賞の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のお二人となった.
受賞後に大村先生は「私自身は微生物がやってくれた仕事を整理しただけ」と謙遜なさっていたが,これは坂口謹一郎・東京大学応用微生物研究所初代所長に始まる我が国の応用微生物学者の常套句なのである.
坂口謹一郎先生 (全くの余談だが作家の星新一は坂口研究室に所属していた) の有名な「微生物にお願いして裏切られたことがない」という言葉は,「こういうことを微生物を用いて実現したい」と目標を立て,適切な研究方法を用いれば必ずそのような微生物が見つかるということを意味している.
言い換えれば,何を微生物を用いて実現したいか,という志のところで大村智先生は非凡だったのである.
私も三十代から四十代にかけての十年間を,微生物探しに費やした.大村先生は,どこに行くにもポリ袋とスプーン (いずれも土壌採取に使う) を持ち歩いていたとインタビューに応えていらっしゃったが,私もポリ袋とスプーンを持ち歩いていた自分の若い頃を思い出して,しみじみとした.
私が見つけた微生物の生産する物質は,博士論文と幾つかの特許となったが,実用化はできなかった.それは私の才能が凡庸だったためであるが,同じように志を果たせなかった人たちが全国にたくさんいるだろう.その人々とともに大村智先生の受賞を喜びたい.
梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長は,2008年にがんで亡くなられた戸塚洋二・東京大学特別栄誉教授のニュートリノ研究を引き継いで今回の受賞となった.
戸塚先生は,スーパーカミオカンデ (Super-Kamiokande) に世界中から集まった研究チームを率いて,ご存命中は我が国でノーベル賞に最短距離にいると評された研究者であった.
梶田隆章先生は受賞インタビューで,ニュートリノ振動の発見は戸塚先生の功績が大きいと感謝の言葉を述べられた.
戸塚洋二先生とは,戸塚先生のご友人に紹介頂いて,二度ほど親しく食事を共にする機会に恵まれた.講演も拝聴したが,物理学門外漢にも大変興味深いお話だった.若くして亡くなられなければ,梶田隆章先生と共同受賞であったろう.あるいは戸塚先生の単独受賞だったかも知れない.避けがたく人間には不運というものがある.これまたしみじみと感慨深い昨夜であった.
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