図書館ビジネス
私は図書館を利用しない.
私はいわゆる団塊の世代の最後尾 (昭和二十五年早生まれ) なので,義務教育の一学年生徒数がベラボーだった.あー,「ベラボー」はどう書くんだ.漢字で書くのは当て字だから「べらぼう」でいいんですね.はい.
記憶が確かでないのだが,私の通った前橋市立城南小学校 (廃校) では,私の学年は九学級あったのではないか.
それが中学になると,複数の小学校から生徒がくるから,一学年十三学級にふくれた.しかも一クラスが六十人近いのである.
こういう時代だったから,小学校の時に蔵書の少ない図書室に本を借りにいっても,残っているのは抹香くさい『仏教説話集』(宇治拾遺とか今昔を種本にしたものだ) みたいな本ばかりで,あまり少年の心を未来に向かって豊かに育んでくれる種類の書物ではなかった.
つまり前橋市教育委員会主催の小中学校読書感想文コンクールで,まじめな女子生徒が『ジェーン・エア』の感想文で入賞したりしているときに,京の都を荒らした盗賊が極楽往生した話を読んでいる子はどうしたらいいのか.いわんや悪人をや,では落選して当然である.
その年頃に図書室にはロクな本がないものと思い込んだ私は,中学では図書室に一度も行かなかった.校舎のどこら辺にあったのかも記憶がない.もしかしたら図書室なんかなかったかも知れない.なにしろ全校で二千数百人の生徒がいるのだから,先生が生徒たちに本を読ませたくても,大きな図書館が必要になってしまうのである.
高校も以下同文.こうして,読みたい本は自分の金で購入する私ができあがった.
さて,書店・レンタルの大手「ツタヤ」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ (CCC) の図書館ビジネスに黄色信号が灯り始めた.
まず,CCCは佐賀県武雄市図書館の指定管理者になり,続いて神奈川県海老名市と「図書館流通センター」共同事業体を作ると発表した.さらには宮城県多賀城市,山口県周南市,宮崎県延岡市でも協力することになっている.
ところがしょっぱなの武雄市図書館で躓いた.CCCが,グループ会社のネットオフの不良在庫書籍を武雄市図書館に購入させたとの疑惑が報道されたのである.この問題に関しては,CCC運営図書館事業を推進した武雄市長樋渡啓祐の人格的問題もあり,市は日本書籍出版協会,日本文藝家協会などを敵に回すこととなった.さらには市民の猛反発によって訴訟に発展して,この事業は事実上の失敗となっている.
またCCCが運営に関与する図書館としては二例目の神奈川県海老名図書館では,武雄市図書館に対する批判を考慮して,市教育委員会の教育長らが,CCCが新規購入する予定の書籍リストの確認作業を行った.
しかるにこの適否を確認した書籍の中にタイ風俗店ガイドなどの,公的図書館にふさわしいとはとても思われぬ本が含まれていると報道された.つまり教育委員会公認のエロ書籍というわけだが,これについて市教育委員会は,問題ない,他の自治体での購入実績があると新聞取材に回答した.他の自治体とはどこだ.武雄か.
昨日の四日,愛知県小牧市の名鉄小牧駅前再開発事業の一つである新図書館建設計画を巡る住民投票が投開票され,反対が賛成を上回った.
山下史守朗小牧市長は,計画に明らかな問題があれば見直すと新聞取材に答えたが,これは明らかな問題がなければ見直さないという意志表明である.
大体,図書館で駅前活性化を図るというのが,そもそも本好き,読書好きの発想ではない.武雄市長樋渡啓祐もそうだが,文化事業に対する見識に問題があるのではないか.
武雄市長樋渡啓祐,小牧市長山下史守朗らの愚昧は,図書館を文化事業ではなくビジネスであると考えたことにある.そこがCCC=ツタヤに付け込まれたのであろう.図書館は利用しないが読書好きの私はそう思う.
ツタヤは営利を目的とする法人であるから,愚かな市長を抱き込み,市民の利益よりも自社の利益優先で,公共図書館の書架にエロ本を並べることくらい平気だろう.しかし企業には社会的責任がある.責任を果たさない企業に儲けさせてはならない.小牧市民は,市長のリコールとか,ツタヤの不買運動とか,書物に唾を吐きかけるような輩には,思い知らせてやるべきである.あー,齢とるとどんどん物言いが過激になるなあ.はは.
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