イムジン河 (一)
昨日の記事で触れた「在日朝鮮人の帰還事業」に幾つかの補足をする.
現代国際政治の不幸は,そもそもはマルクスとエンゲルスの空想から始まった.
すなわちマルクスは次のように主張した.労働者の貧困と隷従と退廃が強まれば強まるほど彼らの反逆も増大する.ブルジョワはプロレタリア階級という自らの墓掘り人を作り続けている.収奪者が収奪される運命の時は近づいている.共産主義への移行は歴史的必然である,と.
しかしマルクスの主張には,収奪する側に立ったプロレタリア (に属する人間) がろくでなしだった場合にどうなるかという,あるべき見通しが欠落していた.
考えるまでもないことだが,支配階級と被支配階級,どちらにも高貴な精神の持ち主はいるし,また低劣な精神の者もいる.そしておそらくこの世には,高貴な魂よりも,低劣なそれのほうがずっと多い.従って共産主義への移行を担うのはろくでなしである可能性が高い.
それは,旧ソビエト連邦とソビエト連邦が支配した東欧諸国の歴史を振り返れば一目瞭然である.レーニンは,民主主義とはプロレタリアによる独裁であると言ったが,レーニンの後継者たちは,民主主義=プロレタリア独裁ではなく,我欲に燃えて個人独裁を欲するろくでなしばかりであったのである.
昔,昭和四十年代に新左翼と呼ばれた諸派の一つである革マル派は,革命が成就したあとは反革命に決起するだろうという広く知られたジョークがあった.これは東大闘争の折に文学部かどこかの便所に書かれた落書きであったと記憶しているが,プロレタリア革命というものの本質をよく言い当てていたと思う.つまりプロレタリア革命を成就させるものは労働者階級であるが,資本家の多くがろくでなしであるのと同様に,労働者の多くもろくでなしなのである.それ故,プロレタリア革命は達成されたとたんに腐敗するということが落書きの意味であった.
さてプロレタリア革命業界三大ろくでなしは,スターリン,毛沢東,金日成だろう.
金日成は1932年頃に中国共産党に入党し,中国共産党が指導する抗日パルチザン組織の東北人民革命軍に参加した.
その後,東北人民革命軍が再編された東北抗日聯軍に対して,日本軍が大規模な掃討作戦を開始したために東北抗日聯軍は壊滅状態となり,金日成はわずかな部下とともにソビエト連邦領沿海州へと逃げこんだ.
ここで金日成は,ソビエト連邦が第二次世界大戦中に創設した民族旅団の一つで,主に中国人と朝鮮人から編成されたソ連極東戦線傘下の第八十八特別旅団に中国人残存部隊とともに編入され,同旅団の第一大隊長となった.
ソ連軍は1945年8月に北緯三十八度線以北の朝鮮半島北部を占領したが,金日成は翌月ソ連邦軍艦プガチョフに搭乗して元山港に上陸,ソ連軍の一員として帰国したのであった.
(続く)
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