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2015年9月21日 (月)

甘藷と馬鈴薯 (十二)

 東京農業大学の熊谷明子氏が論考に《窮乏する生活への登場で普及した経緯から、意識の上で、イモと貧困は連携する》と書いている「イモ」は甘藷のことである.馬鈴薯ではない.また戦中世代の作家などが戦後の食糧難について書き残した随筆で,馬鈴薯が窮乏生活と結びついているとしているものを私は読んだことがない.甘藷と,かぼちゃばかりである.どうしてなのだろう.

 馬鈴薯すなわちジャガイモの原産地は南米アンデス山脈といわれる.甘藷も同じと考えられているが,標高の違いがあるようだ.(ちなみに筆者が作物としての甘藷や馬鈴薯を漢字表記するのは,農水省が公文書にそう書くことが多いためで厳密な意味を持たせているわけではない.しかし救荒作物であった甘藷の伝播を薩摩藩が妨害したにもかかわらず何故にサツマイモと呼ばれにゃいかんのだという反感気分はある)

 で,馬鈴薯は十六世紀にスペイン人によってヨーロッパにもたらされた.
 Wikipedia【ジャガイモ】には次のようにある.

ジャガイモの原産は南米アンデス山脈の高地といわれる。16世紀には、スペイン人によりヨーロッパにもたらされた。このとき運搬中の船内で芽が出たものを食べて、毒にあたった為「悪魔の植物」と呼ばれた。

ジャガイモがヨーロッパにもたらされた当初、ヨーロッパには芋という概念が無かった。そのため、芋というものを食べると分かるまで、本当は有毒である葉や茎を食用とする旨が書かれた料理本がイングランドで出版され、それを真に受けたイングランド人がソラニン中毒を起こした。

 この連載記事の [馬鈴薯] 項の冒頭に

ここら辺までがコミック版『まおゆう魔王勇者』(橙乃ままれ作,石田あきら画) 第一巻の粗筋である.
 現実にあった馬鈴薯の栽培史を,作者の橙乃ままれは,うまくファンタジーに取り込んでいるといえよう.馬鈴薯が魔界の植物であるというあたりは,なるほどと感心した.

と書いたのは,馬鈴薯がヨーロッパで悪魔の植物と呼ばれたことを作者が物語の世界観に取り入れているからである.
(続く)

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