甘藷と馬鈴薯 (九)
『まおゆう魔王勇者』の世界では,人間界 (地上) の大陸南方諸国と,魔族の支配域との国境が戦線になっている.
南方諸国は厳しい自然の貧しい寒冷地域であり,それでも魔族との戦争のために軍隊を維持し,戦わねばならないのだが,この南方諸国と魔族との戦争は大陸中央諸国からの莫大な戦争支援金で賄われている.すなわち,実は南方諸国は中央諸国に「安全」を売って生きているのだ.
だが仮に戦争が終結したとすると,当然ながら中央諸国からの戦争支援金は打ち切られるため,南方諸国は,そもそも消費するだけで生産をしない軍隊を無意味に抱えることになってしまう.ところが戦争がなくなっても軍隊に食糧は必要である.つまり戦争がなくなると,ただでさえ充分な食糧生産力のない南方諸国は国家が成り立たなくなるのである.
この南方諸国の戦争依存体質を変革するための基礎条件として,魔王は勇者に,まず農業改革の必要性を説く.
戦争がなくなったとき,南方諸国は,中央諸国からの援助なしでも食っていけるだけの食糧自給力を持たなければ破綻するのである.
そこで魔王は,人間界の従来農法の生産性を向上させるとともに,魔界の作物である馬鈴薯を人間界で栽培しようと試みるのであった.馬鈴薯の単位面積あたりの収穫量は,実に小麦の三倍に達するからである.
ここら辺までがコミック版『まおゆう魔王勇者』(橙乃ままれ作,石田あきら画) 第一巻の粗筋である.
現実にあった馬鈴薯の栽培史を,作者の橙乃ままれは,うまくファンタジーに取り込んでいるといえよう.馬鈴薯が魔界の植物であるというあたりは,なるほどと感心した.
ただし中高生読者は,作者橙乃ままれの作り出した世界観と薀蓄よりも,石田あきらの描く魔王が好きなんだろうなという気がしないでもない.(笑)
(続く)
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