甘藷と馬鈴薯 (十四)
世に万巻の書はありて,人生は余りにも短い.
新聞,週刊誌,ネット上の「老後の人生設計」と題した山のような文章を読むに,そのことごとくが「数千万円の預貯金と年金だけでは老後破産が待っています」「動けなくなるまで働きましょう」「資金の目減りを防ぐためには資産運用が必要です」と言う.
しかしよく読むと,すべて某生命保険会社がかなり前に算出した「老後世帯の月額支出は三十数万円」を根拠にしていることがわかる.
実はこの「老後世帯の月額支出は三十数万円」は,かつて某生命保険会社が実施したアンケートで「これくらいお金があったら豊かな老後がすごせそうだ」という回答が多かったことに過ぎないのであるが,その願望的回答がいつの間にか「老後の必要生活費」にすり替わったものである.誰がすり替えたか.ネット上の記事を調べてみると大変おもしろい.すり替えたのは,当然のオチであるが,そのことで得をする奴であった.生命保あわわ.
さて私は年金受給前に心筋梗塞で倒れ,もう無理をすることはやめようと陋屋に逼塞して読書の日々である.
こうした生活の実感だが,私が会社員だったときの同僚たちのように年に何度も海外旅行に行くなどの濫費をしなければ,最近ようやくもらえることになった厚生年金で,本代には事欠かない程度の暮らしはできる.
そしてそれをいいことに,今や私の枕頭は本の山積み状態である.
会社員時代はあまり自由時間がなかったから,書籍を購入するときは読むに値するか否かよく考えたものだが,今はもうコミックだろうが教養書だろうが専門書 (食品学や農学) だろうが手当たり次第だ.こうしていると,「あ,こんな本があったのか,知らなんだ!」という本にぶち当たることが実に多い.実に,世に万巻の書はありて,だ.
もっと早く読めばよかった本の一つに,中野京子さんの著作がある.私は中野さんの書いたものを読んで,ロココの王妃すなわちマリー・アントワネットについて何も知らなかったことに我ながら驚き呆れることになったのである.
ロココの王妃,マリー・アントワネット.馬鈴薯栽培史に咲いた一輪の紅いバラである.
(続く)
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