松谷みよ子さん逝く
新聞各紙が,松谷みよ子さんの訃報を伝えた.
各紙とも,松谷さんの業績として民話の採録と民話を元にした創作活動を挙げている.しかし私は松谷さんの読者ではないので,著書は『日本の伝説(上)(下)』(講談社文庫) しか持っていない.
この『日本の伝説(上)(下)』は「狐・狸・蛇の話」とか「長者・姫君などの話」のように民話を分類していて,それはそれで結構なのであるが,「」でくくった会話文は方言を模した言葉混じりの共通語で,地の文は全くの共通語で書いてあることに私は違和感を覚えた.それは文学的創作の手法のように思われたのである.
また各民話の末尾に,例えば (長野県) などと書かれているが,それでは余りにも大ざっぱすぎると思われる.そもそも各地の民話ができた時代に,後の世になって政治的に作られた「長野県」などがあったわけがないからだ.
さらには,全国にその名がよく知られている伝説,例えば酒呑童子の話でも,色んなバリエイションがあるにもかかわらず,一つしか収載していないということも問題だ.そのことによって,豊かな内容を持つはずの酒呑童子伝説が,たった一つに固定されてしまっているのである.
もう一つ大事なことがある.この二冊に収められている民話が松谷さんの創作ではないとの確証が持てないのだ.
松谷さんは驚くべきほど多くの著書を残したが,その中には日本の民話の形を正しく伝えた本 (どこの誰から実際に採話したものであるかが示されているもの) はあるのだろうか.少なくとも講談社文庫版『日本の伝説(上)(下)』を私は信用できない.
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