懐かしの塩味麺 (補遺一)
昨日の記事に書いた《インスタントラーメンの始まりが日清食品の発明になるチキンラーメンであることは,ほぼコンセンサスがとれていると言っていい》について,補足したいことがある.
Wikipedia【インスタントラーメン】から下に引用する.
《インスタントラーメンの定義自体が一定しておらず、「数分ゆでれば食べられる麺」とするなら、古くからある乾麺はすべて該当する。また、「油で揚げて保存性を高めた麺」とするならば、清代には「伊府麺」という油で揚げる製法で、ある程度の保存性があり、でん粉が糊化(α化)した麺がつくられており、香港や台湾では現在も一般的に食べられている。フライ麺という製法で作り置きができ、手早く食べられるという点ではこの伊府麺はインスタントラーメンと同じ発想の食品とみることができる。しかし、これらは麺以外にスープを別に用意する必要があり、即席にすぐ食べられるものではなかった。》
まず《香港や台湾では現在も一般的に食べられている》とあるが,中国本土の上海以南で,街角のごく普通の食堂で私は食べたことがある.
伊府麺は,市場や,町中の乾物屋みたいな食材店にも置いてあった.チキンラーメンのように個包装されておらず,買うときは店の人に個数を言って包んでもらう.
大事なことは,Wikipedia【インスタントラーメン】の記述には《麺以外にスープを別に用意する必要があり、即席にすぐ食べられるものではなかった》とあるが,スープで味付けした麺を揚げた伊府麺もあり,これは麺がもっと太いことを除けば,まるでチキンラーメンである.
中国へ食材の調査に行ったとき,本来の伊府麺は大昔の旅行用携行食品だったと現地の人に聞いた.だからスープをわざわざ作るなどの手間はかけられないわけで,湯戻しだけで食べられるようにしたのが伊府麺の元々のものだという.これは現地の店の人に聞いた伝聞 (もちろん通訳を介して) ではあるが,私はインスタントラーメンの元祖は伊府麺だと思っている.
ただし,伊府麺はチキンラーメンのような汁そばではない.焼きそば状態に調理して皿に盛って提供されるのであり,これは中国の他の麺料理と同じである.(グーグルで伊府麺の画像を検索すると,丼に入れたあんかけそばの画像がでてくるが,あれは日本の中華料理屋で出しているものの写真だろう.なぜなら,具に蒲鉾が使ってある (笑) )
また三省堂大辞林【伊府麺】に
《〔中国語〕卵入りの麺を下ゆでしてから油で揚げ,さらに炒めて味つけする,広東省潮州の麺料理》
とある.
私もここに書かれている潮州料理の伊府麺を広州市の高級レストランで食べたことがあるが,大衆食堂における伊府麺料理とは一線を画する洗練された料理であった.まして保存食の伊府麺とは別物である.
私が思うに,チキンラーメンの発明について安藤百福が自伝にどう書こうと,台湾出身の安藤は伊府麺を知っていたに違いない.だから安藤百福の大発明は味付け麺を油熱乾燥する製法にあるのではない.伊府麺を,日本人が蕎麦やうどんで慣れ親しんだ汁そば形態に造り変えたことである.その意味で,インスタントラーメンの発明者は間違いなく安藤百福であるが,ただし Wikipedia【インスタントラーメン】の記述には問題があると指摘しておきたい.
最後に,伊府麺は横浜の中華街の食材店でも輸入品が売られているが,チキンラーメンのように酸化防止策がとられているわけではないから,食べないほうがいいと私は思う.
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