カチューシャ
東海林さだお『ゆでたまごの丸かじり』(文春文庫) に収められている「再びがんばれ!デパート大食堂」に,昔のデパートの食堂のことが書かれている.
その中に
《「わたしがいまでもよく覚えているのは大食堂のウェートレスです。紺の制服のエリとエプロンが白くて、頭には白いカチューシャ」》
《「あれって、いまのアキバのメードスタイルの原型じゃないですか」》
とある.
メイドさんの原型か.そういわれりゃそうだ.スカートの丈とフリル以外は.
ていうか,純正メイド→大食堂のウェイトレス→アキバのメイドのような気がする.
試みに秋葉原のメイドさんの画像を検索してみた.
確かにほぼ全員が引用文にあるように《白いカチューシャ》をしている.わずかにカチューシャなしのコがいるが,なんとなくメイドさんっぽくない.白いカチューシャはアキバメイドさん必須アイテムのようである.
ただし,ここでいうカチューシャは本来のカチューシャではなく,広義のカチューシャで,布製のものをいっている.デパートのウェイトレスさんがしていたのはこのヘアバンドみたいなもののはず.東海林さだおもそれをイメージして書いていると思われる.
ところで,あのカチューシャは何故にカチューシャというのかがわからない.
カチューシャという名のロシア娘が髪に飾っていたとかいう「いわれ」でもあるからなのか.あるいは全然関係ないのか.それとも,片仮名で書けば一緒だがそもそも別の言葉なのか.
大正二年,トルストイ『復活』の主人公であるカチューシャを演じた松井須磨子が劇中でしていた髪飾りが,当時の本邦婦女子の流行となり,それをカチューシャと呼ぶようになったとするサイトがあるが,残念ながらその説の出典が明らかでない.もしこの説が正しいとすれば,髪飾りのカチューシャは和製ロシア語であるが,歌のカチューシャはロシアの女性名であることになる.
しかし,Wikipedia【ヘアバンド】には
《だが『復活』の演劇が大人気となったことは事実であり、カチューシャや松井と何の関係もないにも関わらず、カチューシャの名を冠した便乗商品が当時は多数出現したと言われる》(引用文中「松井」は松井須磨子のこと)
と書かれている.これによれば,松井須磨子演じたところのカチューシャと髪飾りのカチューシャは無関係である.
さて私たち高齢者は,カチューシャと聞いて先ず何を思い出すだろう.
ロシアの流行歌「カチューシャ」だろうか.
それとも作詞は島村抱月と相馬御風,作曲が中山晋平にして松井須磨子が歌う「カチューシャの唄」だろうか.
私自身はロシアの歌のほうだ.大学に入ったばかりの頃,新宿の歌声喫茶へ同級の女性活動家 (余談だが一浪二留で年上の人だった.一年生のオルグ担当だったために二留したという噂だった) に連れられて行ったことがある.それでこの歌を覚えた.
それから時が過ぎて,新宿の「歌声喫茶カチューシャ」(既に閉店して久しい) にはニフティのオフ会 (FS20;昭和20年代フォーラム) でも一度行った.その時も「カチューシャ」を歌った記憶がある.あの時の皆さんは今もお元気だろうか.
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