週刊文春には,大和ハウス工業の樋口武男会長が著名人と対談するという企画の広告記事が連載されていて,三月二十六日号は料理研究家の土井善晴さんが対談相手であった.
その記事の中で土井さんは次のように語っている.
《グローバル化や何やいうても、やはり日本人はきちんとした日本語を話すこと、食にしてもお箸を正しく、お茶碗を持って食べることとか、あたりまえのことは伝えていかなあかんと思っています。》
土井善晴さんは,家庭料理研究家として著名であった土井勝先生の次男であるが,土井勝先生は,子息の土井善晴さんが語っているまさにその通りに,たいへんに丁寧で上品な日本語を話す人であった.
さてその土井勝先生の薫陶を受けた土井善晴さんは,TBS系列津のテレビ番組『プレバト!!』にレギュラー出演している.
この番組は,芸能人が生け花や料理の腕前,あるいは俳句の才能を競うという企画でなかなか楽しい.
私は岡江久美子さんのファンなので,彼女が出演する回は,テレビ画面に釘付けだ.
それはともかく,この番組で土井善晴さんは,女優さんたちの料理の盛り付けを採点評価しているのだが,料理ジャンルでは盛り付けの他に,蕎麦打ちの腕前とか出汁の採りかたの上手下手がある.
採点者は,蕎麦打ちは東京にある「神田まつや」の店主・小高孝之さん,出汁の採りかたは京都の料理屋さんでミシュラン二つ星の「祇をん佐々木」の店主・佐々木浩さんである.
ところがまことに残念なことに,テレビに映る佐々木浩さんの箸の持ちかたが大変に下手である.
あるブログに佐々木さんの写真が掲載 (記事の中頃あたり) されているが,これを見るとわかるように,二本の箸が平行になってしまっている.一膳の箸の片方は親指の付け根と薬指とで固定し,もう片方は親指,人差し指,中指の爪先で保持して自由に動かせるようにするのが正しい箸の持ち方であるが,あろうことか佐々木さんの親指の爪先は人差し指の中ほどの位置にある.これでは箸先で小さなものをつまむことはできないのであり,その帰結として,料理の盛り付けは不得意なんだろうなということがわかる.
(2015年12月12日の追記;上のセンテンスのリンクが切れているが,同じ画像が他のサイトにあったので再掲する.最初にリンクを示したブログの画像はこのサイトからの無断掲載だったのかも知れない.)
それでも佐々木浩さんの箸の持ちかたはまだ良いほうで,蕎麦屋の小高孝之さんの箸の持ちかたに至っては幼児以下,もうまるでデタラメである.これではせっかくの蕎麦を粋にたぐることは不可能である.テレビに出ないほうがよろしいというレベルだ.
などとけなしてみたが,お二人とも料理や蕎麦打ちの才能は超一流なのであるからして,つまるところ,食べ物を作る才能と箸の持ちかたの上手下手は別のことであるということだ.すなわちこのお二人が食事作法について云々しない限りは全く支障はない.
さて話は『プレバト』から離れる.
昨日,服飾評論家の市田ひろみさんが,専門外のことなのに『市田ひろみ 恥をかかない和食の作法』(家の光協会) という本を出しているのを見つけた.
市田さんについては,かなり前に私が書いたものがあるので,以下に再掲する.
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2006年3月14日
和装師
先々週号の週刊文春を読んでいたら,途中に株式会社『点天』という会社のPRページがあった.カラー見開き2ページで,「ひとくち餃子」の宣伝をしている.うまそうである.
それはいいのだが,このページに日本和装師会会長の市田ひろみさんが,そのスタッフお二人と餃子をおかずにご飯を食べている写真が掲載されていて,その三人の箸の持ち方が幼児のようなやり方なので驚いた.
箸の持ち方は,正しくは親指,人差し指,中指の指先が接近しているのであるが,お三方は揃いも揃って親指の指先が人差し指の中程の位置にきている.箸には親指の関節が触れている格好で,従って親指は箸と直角となっている.こういう持ち方をする人の特徴として,人差し指と中指がすっとのびていないで,手のひら側に曲がっている.こういう持ち方の極端な形が「握り箸」である.
株式会社点天は,このページの撮影が行われるまで,こともあろうに和装の権威である市田さんがまさか箸もきちんと持てない人だとは知らなかったのであろう.もしそうなら同情するが,次回のPRページにもそういう人が登場したら食品企業としての見識を問われると思うぞ.
市田ひろみさんという方は,自分の箸の持ち方が握り箸だということに気づいていらっしゃらないのだろう.この歳くらいの人にも箸がちゃんと持てない人はいくらもいるが,普通はそれを自覚しているのであって,市田さんのように堂々とものを食っている様子の宣伝グラビア写真におさまったりはしないと思う.おまけに先生が先生なら弟子も弟子なので,私は腰から脱力した.
彼女はかつてサントリー緑茶のテレビCMで評判になり,「日本の伝統美を守る女性」の一人として世間には認知されているはずであるが,それが握り箸.着付けの腕前はどうなのであろうか.
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自分の握り箸を矯正できない人が偉そうに『市田ひろみ 恥をかかない和食の作法』を書くとは,悪い冗談としか思えない.市田さんには『プレバト』に出演してもらって,その握り箸を土井善晴さんのご覧に入れ,嘆いてもらいたいものだ.
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