はじめての電子書籍 (二)
「万巻の書は蔵にあり」というが,万巻とはどれくらいか.
国立国会図書館の蔵書数は,図書以外の資料類を除くと平成二十五年三月末に 10,096,114冊 であったというから,我が国の図書だけで千万巻の規模である.
それでは大手の電子書籍販売サイトが公表している全アイテム数はどれくらいかというと,
eBookJapan 344,920点
BookLive! 355,639冊
である.マイナーな他の販売サイトはこれより少ないと思われるが,それでも万巻どころの騒ぎではないだろう.
国会図書館所蔵の図書の 3.5% が電子書籍として販売されている,というと凄いことのようだが,問題は中身だ.
販売サイトをちょっと閲覧してみると,電子書籍のメインはコミックであることがわかる.販売サイトが「まんがを中心に…」をうたい文句にしているのだ.
コミック以外はどうか.
例えば歴史分野の例として「網野善彦」で著者名検索してみると,eBookJapan では,よく知られた著書十一冊がヒットする.
しかるに Kindle ストアでは四冊しか販売されていない.
また例えば文芸分野の例で「松谷みよ子」で著者名検索してみると,eBookJapan にも Kindle ストアにもない.
さすがに最近の出版物は,紙の本を作る前の段階でデジタルデータ化されるので,電子書籍化されるものが増えてきたであろうが,少し古いものは電子化するのに復刻と同じ手間がかかるわけだから,販売数の見込みが少なくて限界利益が出ないものは営利事業にはなじまない.
紙の書籍の出版社は営利事業とは言い切れないところがあるから,赤字でも出版することがあるが,そのような文化的背景を持たない電子書籍販売にはないものねだりだ.
従って私たちは国会図書館の蔵書デジタル化に期待する,あるいは青空文庫への収録を待つことになるだろう.
少し前に鳴り物入りで登場した電子書籍であるが,私の生きているあいだは,せいぜいコミックと雑誌を読むのに利用することになると思う.
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